「あえて言うがな」
「あえて言わなくていい」
「それ、何だよ?」
「………。」
普段から料理しないあいつが、真子から押し付けられていたビラビラのエプロンを見事に着こなし、珍しくキッチンに立っていると思えば…。
「黒コゲじゃねぇか。卵が黒くなるのは初めて見たぜ。」
「うるさい…黙ってて…」
「何作ろうとしたんだよ?」
「うるさい…」
「オムレツか?目玉焼きか?」
「うるさいって言ってんでしょ!」
細くて白い美脚を振り上げたかと思うと、その足は空を切り、見事オレのケツに命中した。
勢いよくキッチンから追い出された俺は、見事に襖とこんにちわ。
恨めしげにキッチンを見遣ると、そこには泣きそうな表情でフライパンを見つめるあいつがいた。
「卵焼き、作りたかったの…」
「たく…、なんで急に?」
「だって…」
「あぁ?」
「だって…っ…」
「………。」
「料理できない女とか…」
「阿呆」
いまだ大きな瞳いっぱいに涙をためたあいつを力一杯抱き寄せる。
「やっと手に入れた女を誰が手放すかってんだよ」
「…ん」
「土下座されても別れてやんねぇ」
「それはちょっと…」
「おいっ!?」
よく見れば、細い指にはたくさんの絆創膏。いままで、俺の目を盗んでは一生懸命練習してたっつーわけか。
まったく…
阿保じゃねぇのか俺は俺のためにお前が怪我する方が
よっぽど嫌なんだよ
「今度、俺が教えてやるよ」
「甘いのがいい」
「うーんと甘くしてやる」
100808
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