僕が君をこの手で | ナノ




君が隣にいてから
僕は涙脆くなったんだ









ねぇ、父さん



あなたは、最後の別れの時に私に言ったよね



意味のない人生なんてない



だから、頑張って生きていけって




でも、本当にそうなのかな?


今の私にも生きてる意味なんてあるのかな?


だって思うんだ




私がいようといまいと変わらないこの世界に、私の存在が意味を成しているのかなって




でもね、最近まではね、


そこで思考は停止してたのに




今はもしかしたら、なんて

考えてしまう私がいます




















あなたは、私が消えたら、




"ああ、消えちゃったんだ"



ってくらい思ってくれないかな


















そんな馬鹿なことを考えてしまう




でも、そう思ってくれるのなら




私にはそれが"生きた意味"になる












私、初めて笑えたんだ






あなたの御蔭で笑えたんだ



















ねぇ、隊長




私、あなたに会えてよかった





あなたに会えてよかった










生きること、続けてみたくなった















また、笑いたくなりました




















私、あなたに会うために


生まれてきたんじゃないかな?





そうならいいのに





そしたらあなたは、


苦笑いしながら



「きっとそうだよ」なんて





言ってくれそうな気がして


















ああ、やっとわかった











私、あなたのことが、












好きだったんですね




















ピッピッピ…


聞き慣れない無機質な音がする。鼻をつくような消毒液の香りを嗅ぎながら、目を開いた私の視界に映ったのは、真っ白な天井を背景に苦笑いを浮かべるあなたの顔だった。





「たい、ちょ…」


「やあ、気分はどうだい?」


「わ、たし……」



何をしていたんだっけ。ああそうだ。ずぶ濡れになりながら隊舎に帰ってきて追い出されて、またあの木の根元に行ったんだ。そしたら急に何もかもが怖くなってしまって。


そして…


私はあなたの声がしたような気がして振り向いたんだ。







「雨に濡れたせいで風邪をひいたみたいなんだ」


「たい、ちょ…」


「薬を飲んで安静にしていればよくなるらしいよ」


「たいちょ、う」


「よかったね、大事に至らなくて」


「たいちょう」


「ねえ君はさ」




隊長が動かない私の手を取って、絡め合うように手を合わせた。いつものように隊長の手は暖かくて。繋がった手を通して、隊長の優しさが私の身体の中に伝わってくるような気がして。









「三番隊に相応しくないよ」




「………はい」







不思議と何も感じなかった。

ああ私はどこまでこの人に洗脳されているんだろうか。最初はたぶんこんなはずじゃなかったんだと思う。

今なら私は、あなたのいうこと全部信じてしまいそう。










「三番隊なんか辞めればいい」


「はい」


「ずっとチェスしてればいい」


「はい」


「いっそ死神なんかね」


「はい」


「やめればいいんだよ」


「はい」






あなたの声が優しくて、いつまでも聴き入っていたくなる。

内容なんてどうだっていいよ。


今はあなたが私に語りかけているという事実が、私の生きる希望になっている。







「死神をしたいならさ」


「はい」


「移隊すればいいんじゃないかな」


「はい」


「拳西のとこ、羅武のとこ、」


「はい」


「真子のとこもいいかもね」


「はい」





隊長と初めて話した時の話題は、"どうして死神なったのか"だったはず。最初は噂で聞いてるはずなのに嫌な人だって思った。

だから負けじと平然に答えてやったら、隊長は次の日も、また次の日も、新たな話題を持って私に話しかけてくれた。


ある日、あなたはチェスを持ってきた。


どこから持ってきたのか、立派なチェスセットは、私がまだ貴族として暮らしていたときにやっていたものとよく似ていたものだから、本当に驚いた。

何をやらせても人より劣る、落ちこぼれの私にとって、チェスは初めてできた私の特技だった。







「それでね、夕方になったらね、」


「はい」


「君はこっそり僕に会いに来る」


「はい」


「隊首室に忍び込んで」


「はい」


「チェスをしよう」


「はい」





あなたはいつか言いましたね。


君はまるでナイトのような戦い方をするんだね、って。


あれ、違うんですよ。



私はクイーンみたいになんでもやれる器用な死神じゃありません。


だから第一線に立ってあなたを守ってあげられるような自信はありませんでした。


ナイトのような戦い方をする?



いいえ、ナイトのような戦い方しかできなかったんですよ。


せめて、あなたを守る盾となれるように。


何かこれといってできることはないけれど、あなたのために死ねるように。



だから私はあなたのナイトになろうとしたんです。



いえ、なりたかった。




あなたのナイトになりたかったんです。










「僕が君に勝てる日が来るかな」


「どうでしょう」


「君は本当に強いからね」


「チェスだけは…」


「ううん、チェスもだよ」






隊長が、私と繋いだ反対の手を伸ばし、私の前髪を掻き上げて、目を細めて笑った。












「よく我慢したね」


「………」


「君は本当に強かったよ」


「………」


「だから、もうそろそろ」


「……っ…」


「僕のナイトは、卒業してくれないかな?」


「…………っ…」













どうしてあなたは、いつも私の欲しい言葉をくれるんですか?














君がにいてから

私は涙くなったんだ










「もう終わりにしよう」


「…っ…はい」


「強い君とはお別れだ」


「…はい」


「弱い君を迎えてあげよう」


「…はい」


「だからね、もう、」


「………」


「泣くのを我慢しなくていいよ」


「…はいっ」















お父さん、私ね、

生きる意味を勘違いしてた





生きる意味っていうのは

自分で探すものじゃなかった









見つけるものだったんだ






誰にでもすぐ近くにあるのに

気づかない人が多い




だから人は"悲しみ"を感じる









でも、私は見つけたよ









私の"生きる意味"見つけたよ












私の生きる意味、それはね、















あなたの隣で笑っていること















「たいちょ、」


「ん?」


「私、隊長が好きみたいです」


「……奇遇だね、僕もだよ」











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