僕が君をこの手で | ナノ




僕は泣きたくなった






彼女が去っていった執務室。




何も変わらない。


彼女がいなくなったことが、さも当然のことのように。


誰も何も言わない。




隣では三番と六席が何か言ってるようだったけど。


何も聞こえない。


何もわからない。




なぜ、彼女がここを去らなければならない?









「これが"絶望"か…」


「えっ……?」



三番隊が表すのは"絶望"。


ああ君達はやはり三番隊に相応しいんだね。


むしろ、相応しくないのは、




あの子の方だったんだね。









「うん、確かに彼女は三番隊には相応しくないね」


「……!隊長、そう思うんでしたら隊長からも…」


「でもさ」




彼女たちの言葉を遮って振り返った。



ああ、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。


もう少し早く気づいてあげられたら、ここに彼女の居場所というものを作ってあげられたんだろうか。

いや、それは違うな。


だって、三番隊は"絶望"を表す隊。




彼女が"絶望"?


全く、笑えるね。







確かに最初は出来心だったんだよね。


落ちぶれた貴族の子が、金と引き換えに死神になったなんて話を聞いたから。

まさか三番隊に来るなんて思ってなかったし、最初見た時は、この子が元貴族なんて思う見なりをしていたけど。

でも確かに彼女は落ちぶれても貴族は貴族だった。

教養、仕種、言動。

本当は二重人格なんじゃないかってくらいに自分の身分ってもんを理解していた。


だから、最初はからかったつもりだった。


彼女はどこまで成り下がれるのか。


どこまで貴族のまね事を続けられるのか。


試しに、いろいろな話を持ち出してみたのに、彼女は全く意に解した様子もなく、丁寧に答えていた。


だったらと、女から貰ったチェスを持ち出してみると、彼女は初めて表情を変えた。

それがなんだか面白くて。

「教えてくれない?」って聞くと、最初は躊躇っていたけど、こっくり頷いて。

実際、一緒にやってみると、彼女は驚くほど博識だった。

それがなんだか面白くて。


いいや、面白かったんじゃない。


その時、初めて彼女を知れた気がして、嬉しかったんだ。




それから毎日、彼女とチェスをした。


ちょっと眉間に皺を寄せながら、淡く微笑む彼女の顔が見たくて。


それからどんどん彼女が気になって仕方なくなった。





その頃には、もう止まらなかった。



















「あの子を苦しめる君達を、僕は許してあげることはできなさそうだ」





笑ったつもりはない。

でも笑っていたかもしれない。







だって、



僕ほど"絶望"を表す男なんて

他にいないだろう?














僕はきたくなった









彼女と正反対に位置する僕は


きっと
彼女に相応しくないんだろうね




三番隊に彼女が相応しくないように




だからとても泣きたくなったよ









100813

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