君が悲しそうに怒るから
びしょ濡れ姿のままで隊舎に戻って来ると、冷たい視線が冷えた身体に突き刺さった。
私は落ちこぼれなんだよね。
ただの落ちこぼれだったらよかったのに。
私は貴族の落ちこぼれだったから。
あ、訂正します。
元・貴族の落ちこぼれです。
「隊長、わざわざありがとうございました。御風邪を召されないよう御気をつけてください。」
「ああ、うん。君も早く着替えた方が…」
「いえ、私はまだ仕事があるので」
「は?でも、そのままじゃ…」
「「隊長っ!!」」
隊長が私になおも優しく声を掛けようとしたところで、三席さんと六席さんが隊長に攻め寄った。
「いつまでもこの子に構ってないで仕事してくださいよ!」
「え、でもさ…」
「どうでもいいですよ、こんな落ちぶれ貴族の落ちこぼれ」
「………」
「隊長、仕事は待ってくれません。早く隊首室に御戻りください。」
三席さんと六席さんの視線が突き刺さる。ううん、二人だけじゃない。みんなが私を睨んでる。私はふさわしくない。三番隊には相応しくない。みんなの目がそんな風に私に叫んでる。
わかってる。わかってるよ。
私はいつも一人ぼっち。
クイーンにも、ナイトにも成り切れない、ただの手駒でもあるポーンなんだ。
「ごめんなさい……」
泣けない。まだ泣けないね。
私はまだ、何も頑張れちゃいないもの。
なのに、なんでかな?
どうして声は震えんだろ?
「邪魔、早くどいて」
「水が滴ってんだけど」
「拭いてよね」
「汚いなぁっ…」
みんなから浴びせられる嘲笑。
ああ、私はまた一人ぼっちだ。
それ以上、私には何も言うことができなくて、ただ黙ったまま執務室を出た。
ああ、なんだ。
こんな雷、何も怖くないじゃん。
みんなから浴びせらる罵声に比べたら。
みんなから向けられる嘲笑に比べたら。
何にも怖くないじゃん。
また雨の中進んだ。
既に重くなっていた死覇装は、また水を吸って重たくなっていった。
体中が怠い気がする。
あちこちが痛い。
あ、でも。
心が一番痛いのかな。
この雨の中、溶けていくことができるのなら、どんなに私は幸せだろうか。
実際問題、そんなことできるわけがないのに、そんな夢を見てしまう私は、やっぱり落ちこぼれなんだね。
再びあの大きな木の根元にたどり着いた時、微かにあの人の声を聞いた気がして振り返った。
「………ねぇ、君は」
でも、疲れのせいか、私のまぶたは上がらなくて、僅かしかない私の視界には真っ白なものが映ったような気がして。
「どうして何も言い返さないの?」
でも、それでも、どうしようもなく嬉しかったよ。
君が悲しそうに怒るから
意識を失う直前に私は何か暖かいものに包まれた気がした
100813
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