幼心の残る君 | ナノ












「連れてきてやったぞ」


「………嘘でしょ」




客寄せしてこい、と耳にタコができるくらい言われ続けてきたので、仕方なく馴染みの奴らに声をかけてみることにした。


たまに土産として隊に持って帰ってくるので、白は当然のように飛びついた。

まあ、こいつの場合は甘い物ならなんでも飛びつくだろうが。


そして、よく隊にやって来る羅武や真子は、「あの団子か」と心得たもので、素直について来てくれた。

後は芋づる方式のように。

真子に悪戯を仕掛けにやって来ていたひよ里。

どこに行くにもついて来る真子の副官、藍染。

羅武に漫画を返しにもらいに来ていたローズ。

ぞろぞろ歩いていたら興味津々について来たリサ。



本当に馴染みの連中がぞろぞろとついて来やがった。


道中で俺の女だとか、あいつはすっげぇ別嬪だとか、くだらねぇ話で盛り上がった奴らは、本当にうるさかった。

あまりに大騒ぎしているものだから、様子を伺に暖簾から顔を出したあいつは、ビックリしたように目を真ん丸にした。







「あ、えっと、ごめんなさい。こんなに来てくださったのは初めてだから、椅子が足りないの…」


「おい、お前が連れて来いつったんだろうが」


「とりあえず、拳西は立ってなさい。すぐに簡易椅子を持ってくるので。」


「てめぇ…!」



あいつは俺以外の奴らを見渡してニコリと微笑むと、奥に引っ込んでいった。





「拳西」


「なんだよ…」


「えらい可愛い子やん」


「……は?」




女たちに椅子を取られ、ローズと羅武は当然のように悠々と簡易椅子に腰掛け、仕方なく立たされていた俺と真子。



真子はニヤニヤとしながら、ひよ里たちに茶を渡しているあいつを見ながら言った。






「……そうか?」


「レベル高いでぇ。団子屋にしとくのが勿体ないのぉ。」


「………。」



内心ドキリとしながら、真子の話を聞く。

自然と目はくるくると動き回っているあいつに止まって。


思えば、親父さんが死んでから、俺以外の奴に接客しているあいつを見るのは初めてで、心が異様にモヤモヤした。







「……いっ」


「…………。」


「…ちょっと、拳西ってば!」


「あ?」




ぼーっとしていたらしい。

唇を尖らせたあいつが目の前に茶を差し出していた。

隣では真子が呆れたように笑っている。




「もう、いらないの?」


「いや、いる。」


「ちゃんとテーブルは持って来てあげたから」


「いや、椅子持って来いよ」


「だから足りないの!」





文句があるなら地面に座ってなさい、と高らかに言い放つ奴の頭を軽く小突くと、可笑しそうに笑い出した。




「拳西っていつもこんな感じなんですか?」


「こんな感じて?」


「いっつも、ぼーっとしてるんです。」




あいつはテーブルに団子を置くと、お盆を抱えたまま、真子と聞き捨てならない話をし始めた。




「いつもしっかりしとるで?」


「えーっ、信じられない!」


「うっせぇ…」


「ここに来るといっつもぼーっとしてるじゃない!」


「あらぁ…拳西クン、何考えてんねやろなぁ?」


「ねーっ!」



二人揃ってニヤニヤと笑い出した。


イライラして顔を背けると、「拗ねたっ!」とまた二人で笑いあうので、またイライラが溜まっていく。





しばらくあいつと真子は初対面にも関わらず、息が合うのか、随分と話し込んでいた。








面白くない。





連れてこなければよかった、なんて。




店の繁盛のためだ。

繁盛すれば、あいつが怒ることも泣くこともなくなるのに。









それでも、俺のそばで泣いていてくれてた方が、まだよかった気がする。












「拳西、どうかした?」


「あ?」




いつの間にか、平子と楽しそうに話していた奴が目の前で俺の顔を覗き込んでいた。





「別に」


「なんか、おかしいね」


「おかしい?」


「うん、おかしい」



そう言って少し笑うと、店に寄り掛かった俺に並んで寄り掛かると、再び俺の顔を覗き込んだ。







「ありがとね」


「…てめぇが素直に礼言うたぁ珍しいな」


「あんたの中で私はどんな女よ」


「不器用な奴」


「………間違いじゃないけど」


「自覚してんのかよ」




思わず喉を鳴らして笑うと、あいつもつられるように笑い出した。





「…………ありがとう」




お茶に伸ばそうと腕組みを崩し、伸ばした俺の指先に暖かい何かが触れた。


それは、きゅっと俺の指を包み込んだ。









「………ありがとう、拳西」



「…………おー」






優しく微笑んで、最後にもう一度だけ俺の指をキュッと握りしめると、団子をねだる真子たちに呼ばれ、笑顔で駆けて行った。









赤い顔の俺を残して。










止まぬ笑顔は
天使のよう


独り占めなんてとてもできそうにない









「ところで向こうにぽつんと佇んでるのはどなた?」
「あ?あれ、真子んとこの副隊長だろ」
「ほんまや。惣右介、何してんねん?団子嫌いか?」
「い、いえ」
「何や店長さんに一目惚れしたんか?」
「あ゙ぁ?」
「やだ、平子さん、そんな訳…」

「…そうだと、言いましたら?」

「「「………は?」」」















 




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