幼心の残る君 | ナノ














「経営がやばいわ」


「またか」


「だっていつまで経っても拳西が客寄せしてくれないからでしょ」


「それはてめぇの仕事だろ」


「私は団子作りで忙しいの」




店の暖簾をくぐると、俺の顔を見たあいつが開口一番に言ってきやがった。おい、「いらっしゃいませ」はどうしたんだ、いらっしゃいませは。

だいたい、なんでこいつの店が経営難に陥ってるかがわかんねぇ。先代の頃は、常連客なんざ俺以外にもたくさんいたし、護廷十三隊にもお抱えがいた、なんて言ってたような気もする。


なのになんでいきなり寂れてやがる。






「だからね、新商品」


「はあ?」


「現世のお菓子、"ホットケーキ"」


「"ほっとけえき"だあ?」



おいおい。

俺が浮気するより先にお前が浮気してどうすんだよ。


そんな俺の思考は届かないらしい。あいつは、奥から甘い匂いのする茶色の物体と、湯気の立つ茶色い茶を持ってきた。なぜかいつもの湯呑みじゃなくて、真っ白の変な形をした湯呑み。





「湯呑みじゃないわ、ティーカップ」


「"てぃかっぷ"?」


「あんたほんとカタカナ発音下手ね」


「うるせえ!ほっとけ!」




いつものように隣に座ったあいつの盆から、そのてぃーなんちゃらを奪い勢い良く飲んだ。



「ああ?」


「どう?」


「甘え、茶が甘え」


「お砂糖が入ってるもの」


「なんで茶に砂糖を入れるんだよ」


「そういう飲み物なのよ」




ぶっちゃけ、まずい。

砂糖を入れるとかわけわかんねえ。

茶はほろ苦いのがいいんだろうが。






「だったらこっち」


「おい、俺はいつもので…」


「試作品だからタダなんだってば!」


「お、おい…」



ナイフで茶色の物体を綺麗に切り分けると、フォークを突き刺し、俺の口に近づけた。




「あーん」


「自分で食うわ」


「ダメ、あーん」


「んなこっ恥ずかしいことできっか!」


「ああっ」



俺はあいつからフォークを奪い取ると、その茶色い物体を口の中に突っ込んだ。


恨めしそうに俺を見ていたあいつも、咀嚼するにつれ、その表情は興味津々な子供のように変化した。




「どう?おいしい?」


「あー……」


「ねぇ、どうなの」





俺の腕をギュッと掴み、目を輝かせて俺を見上げるあいつ。








「あぁ…、甘えな」











シロップだらけの
ホットケーキ


それはとんでもなく甘い










「やっぱりいつもの」
「残念、失敗?」
「失敗だな」
「だったら客寄せ…」
「他のやり方考えろよ」
「嫌よ、めんどくさい」
「…………」
「いっそ甘味所にしようかしら」
「だから浮気すんなよ」