02
「君可愛いね。一目ぼれしちゃった」
「…酔っぱらってますか?」
酔っぱらってるなんて、まさか。どれだけ飲んでも俺は酔わないよ。
怪訝な表情で俺をうかがう彼の顔に、正直に不信感が露わに出てて笑った。俺の周りにはいない、感情を素直に表す純粋な子。
「未成年をナンパしてなにしてんだ…」
「君、未成年なの?」
ということは、大方ここらへんの居酒屋でバイトしてた帰りってとこか。
この先には確か全寮制の男子校のスクールバスが出てるバス停があるから、彼はそこに向かってるんだろう。
それにしても、未成年ね。
もし何かあったら、このネタで脅そう。
そう邪な考えが無意識の内に出ていたのか、一気に警戒して逃げようとした。そんなのさせるわけないでしょ、と素早く抱きしめる。
身長は高いのに細身の体。これならきっと、抵抗されても絶対に勝てる。
サラリーマンに抱きしめられてる学生(多分見た目的に、高校生くらいかな)。そんなの注目を浴びるに決まっている。
そして彼はきっとこう思うだろう。
―――どこでもいいから、人目のつかない場所に行きたいと。
思惑通り、俺の住んでいるマンションの近くの公園へと連れてかれた。
多分彼の帰り道なんだろう。スタスタと慣れた様子で足を運ぶ。
近くにバス停があるんだろうね。だけど残念ながらバス停に近づくってことは、俺の家にも近づいてるってことで。
無理矢理手を繋がせて歩く。ベンチに座ったところで、彼が真剣な表情をして俺に向き合う。
文句でも言われるのか?まあそんな口はふさぐけれど。
だけど出てきた言葉は俺の予想斜め上を行くものだった。
「おれ、今傷心中だからね。失恋してすげーつらいの。あんたは遊びのつもりで声かけたんだろーけど、おれは今すっごい優しさに飢えてるの!だから、一回でもおれに手出したら、おれ、うっざいくらいあんたに付きまとうからね。彼氏面とか平気でして、すっごいうっとおしいと思うよ。そんなん面倒でしょ、お兄さんもてるだろーし言っちゃ悪いけどヤリチンっぽいし。だから、おれのことはやめたほーがいいよ!」
ぜーはーと全力でそう言い切った彼。
公園内にいたすべての人間がなんだ、と彼を見てくる。
それを威嚇するように睨むと、とたん目を逸らして元に戻った。
満足したとばかりにそのまま逃げ出そうとする彼の腕をまたつかむ。
そして今度こそ離さないとばかりに力強く抱きしめる。
――――久しぶりの、高揚感。
ゾクゾクする。
この子を、俺のものにしたい。
好きとか愛してるとかじゃなくて、もう。
「逃がさないよね、とりあえず」
―――――初めての恋は、甘く熟した、メロウな恋。
おわり
兵藤さま酷い。
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