01


カレはオレの、たったひとりの女王様で、たったひとりのご主人様。

「女王様ー」
「うるさい、バカ犬」

女王様こと、斉藤りり(さいとう・りり)は、いつも難しい本を読んでいる。勉強嫌いなオレとは正反対に、知識が増えるのが楽しいと、あのときめったに見せない笑顔でオレの質問に答えてくれた。
今までは見向きもしていなかった図書館に自分から進んで行くようになったのも、女王様がいるおかげ。

「女王様って呼ぶのやめなさい」
「えーじゃあなんて呼べばいいのー?」
「…名前」
「りりちゃん?」
「…」

真っ赤になっちゃった。こういう仕草を見せてくるから、ますます俺はりりちゃんから離れられないんだよねー。まあ、離れる気はないけど。
ぎゅーって思いっきり抱きしめて、腕の中にいる可愛い子を愛でた。
ちょっとして正気に戻ったりりちゃんに思いっきりぶたれたけど。




最近転校生が学園に来た。
俺とりりちゃん以外の生徒会の馬鹿や、学園の人気者、ホスト教師なんかを侍らせて学園生活を楽しんでいるらしい。
りりちゃんが仕事をしなくなった役員に注意するけど、超絶空気の読めない転校生がなんかわけわからんことを喚くから、相手にしなくなった。

もはや人目も気にせず二人でいちゃいちゃ(俺的には)しながら仕事をしていたとき、バーンと大きく扉が開いた。
ちょうどそのとき、りりちゃんが俺を「バカ犬!」って罵ったところだったからか、あのバカはすっげー勘違いをした。


「おい、りり!!お前サイテーだぞ!!!人間を犬扱いとか、何様なんだっ!!」
「はあ?」
「ちょっとうるさいよてんこーせー。りりちゃんは俺のご主人様で、俺はりりちゃんの犬なんだからー」
「な…っ!?おれは久輝(ひさき)のことを思って―――!!」
「有難迷惑ってやつなんですけどぉ」

そのやりとりを聞いていたりりちゃんが、きゅ、と弱い力で俺の制服の裾を握ってきた。
りりちゃんって、ホントはすっごい心配性で、メンタルもちょっと弱い、守ってやらなきゃって思うほどか弱い子なんだから。
ほら、転校生のばかな言葉で傷ついた。多分今、不安でいっぱいって顔だと思う。
ご主人様とか関係なしに、俺はりりちゃんを愛してるんだから。
転校生の言葉なんか信用したりしないで、俺を見て。

「りりちゃん。お部屋もどろっか」
「……」

こくり、と小さくうなずいたのを確認して、俺よりも格段に小さい手をきゅうと力強く握る。
今気づいたけど、後ろに転校生の取り巻きマイナスホスト教師が立ってた。
なんか睨んでくるけどもー無視無視。

「おいっ、久輝―――!!」
「お前っ、何様のつもり―――」

そうやって後ろでみっともなく喚く声は、ぜーんぶシャットアウト。
あとは小さく震えるこの子を、どろどろに溶かせて、俺が傍にいるっていうのをわからせるだけ。






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