02
間宮が意気揚々とメールの女と遊びに出かけてった。もしかしたら帰らないかも☆とか言われたけど、あいつヘタレだからぜってえ日付変わる前に帰ってくんな。あと多分、あの女は間宮のこと恋愛対象として見てねえぞ。多分弟くらいだと思ってんじゃね。勘だけど。
そんなわけで寮から出るのも面倒な俺は、課題があったことを思い出して一人図書館に向かっている。
どーせ間宮、今日の遊びのことで頭いっぱいだから、課題があること忘れてんだろーな。仕方ねえから見せてやるか、100円で。
図書館に向かうのにどうしても第1保健室を通らなければいけない。あのときの光景を嫌でも思い出す廊下を歩いていると、ちょうど保健室の目の前を通った時、また喘ぎ声。
「お盛んだな……」
こいつ職務放棄してんじゃねえか、首にしろよ、こんなビッチ。
大体いい大人が性欲持て余して生徒に手出すってどういうことなんだよ。
この学園の生徒会長もすんげーヤリチンだったけど今は更生したみてえだし、俺も人のこと言えたもんじゃねえけど、まだ10代だし。つーか俺が共学行ってたとしても、ぜってえおんなじ学校の奴なんか手出さねえ。
寮が嫌で男に目覚めるんだったら、外に出ればいいだろ。それを殻に閉じこもって仕方ないって妥協して男に手出すのは、みっともねえ。
「クソビッチ」
あーあ、不潔だね、まったく。
そう思ったら、目の前から中で喘いでいるはずの人物が白衣を揺らしながら歩いてきた。
「あ」
「…きみ、…」
「なんだ、中でアンアン言ってんの、センセーじゃねえんだ」
嫌味ったらしく顎で中をさすと、目の前の美貌に朱が走った。
「センセーが男に飢えてんのはわかるけど、そーいうのに興味ない奴で遊ぶのやめてくんねえ?」
「…は?」
「さ・え・ぐ・さ」
「っ!」
わざわざ区切って言うと、驚愕で目を見開いてる。
はは、うける。
オトコなら誰でも自分の魅力にひれ伏すとでも思ってたんか。だとしたら勘違いしすぎだろ。どれだけ美人な男でも、女には勝てない。
「今度マミ傷つけたらただじゃおかねえぞ、クソビッチ」
後ろで崩れ落ちるように膝をついた保険医のことなんて、知ったこっちゃねえ。
「…キミくん…っ」
白衣を握りしめて俺の名前を呼んでる奴のことなんて、俺は全く興味ないね。
「あーあ、胸糞わりぃ」
ちっと舌打ちして歩いていると、またまた前方からさっきとは比べようにならない位なクソ教師が現れる。
もうなんも言わねえしもうなんもしねえ。無視無視。
何も言わず横を通り過ぎようとしたけど、空気も読まずにそいつが俺の名前を呼んだ。
おい、とかなら無視だけど、ご丁寧に苗字で呼びやがる。
「…なんすか、三枝センセー」
「…間宮、最近どうだ」
「は?」
なんだその世間話。ばっかじゃねえの。
「センセーがくっだらねえ賭けしてたおかげで、俺のマミちゃんはきちんと目が覚めましたー」
「――っあれは、雪がお前と間宮の関係に―――」
「どーでもいいんだよ、きっかけとかそんなもん。マミは短い間だったけど、本気であんたに恋してたんだよ。それを内心二人で嘲笑って賭けの対象にして、あいつがどんだけ傷ついたかわかってんの、お前らは」
「…それは、本当に悪かったと思ってる」
うわ、本気でしょげて本気で反省してんじゃん、このホスト教師。
だけどもう遅いし。
「マミが他に目を向けて自分に興味を無くした途端、気になり始めた。そういうオチ?」
「……」
「ほんと、クソだな。てめえら」
三枝は、何も言わなかった。
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