05
「ん…」
そんな風に思っていた時、腕の中のヒノエが身じろぐ。
僕が思っていたと同時にそんなことをするものだから、心の中が読まれたみたいで必要以上に驚いてしまった。
「ああヒノエ、起きたか?」
「あー…紫呉サン…。あーちょっと頭ぼわーってする…」
「ヒノエ飲みすぎだよ、どうしたの。いつもと違うじゃん」
「…うるせ」
その言いようは何?ちょっとむっとするけれど、吹石さんのいる前だからこらえる。
あー頭が、とかぐちぐち言いながら立ち上がるヒノエ。
トイレ行ってこれば?と言えば、じゃあついてきてっていうし、自己中過ぎると思う
…。
「じゃあボーイにでも頼んで連れてってもらえばいい。俺と紫鶴は二人でまだ話そう。せっかく今日会えたしね」
「え…?」
そう言うとバルコニーの扉が開いて黒服のボーイが現れ、酔ったヒノエを介抱しながらトイレに歩いて行ってしまった。
「大丈夫かな、ヒノエ…」
「大丈夫でしょ。あいつ酒強いし、今日は精神的にもちょっときてるみたいだからあんなに酔ってるんだよ」
「…?」
「わかんないよね、紫鶴には」
くしゃくしゃと大きな手で頭を撫でられる。
きゅんと心臓が高鳴った。
「あの、吹石さ「ストップ」
「…?」
「紫呉でいいよ。紫鶴は特別」
「…じゃあ、紫呉さん…」
「ヒノエと呼び方一緒だなー…まあいいか」
なんだかふき、じゃなくて紫呉さん、上機嫌だなぁ…。
そこまで思ったところで手に持っていたワイングラスを見て、ああお酒に酔ったんだって納得する。
一人うなずいていた僕を見た紫呉さんがああ、と呟く。
「俺酔ってないよ?」
「え?」
「ヒノエは強いって言っても飲み続けたら今日みたいになるよ。そうなったら、酔ったヒノエを介抱するのは誰だと思う?」
「…?」
「現場の打ち上げでも俺よりも強い奴はいないよ」
ヒノエが酔っぱらう前にみんな潰れてるよ。
そう笑い混じりに答える紫呉さんが何を言いたいのか僕はわからなかった。だから曖昧に笑っておくと、わからないよね、とまたにこりと笑いながら言われた。
頭の中は疑問だらけだけど、紫呉さんは気にしてないみたいだし、僕も考えるのはやめて今この時間を大切にしようと思いまた話に熱中した。
そして次の日。夢のようなひと時は終わり、ふつうに学校生活が始まる。
それでも得たものはあった。
「メアド…げっと…!!」
手のひらの中に納まるくらいの小さな紙に書かれたアルファベットと数字交じりの言葉。
いつでも連絡してきてね、とプライベートであるはずの携帯番号と、自宅の番号さえも書いてある。
これは落としたら大変だ、と僕の紫呉さんルームで大事に保管しようと足を進める。
るんるん気分でがちゃ、と扉を開けようとドアノブに手をかけた瞬間、僕のじゃない手が上からかかる。
「…随分上機嫌だな、紫鶴」
あっと思った瞬間、強引に扉が開けられる。
「ヒノ――――っ!!!」
「すげえ部屋」
くつくつと喉の奥を震わせるような笑いが、僕の真後ろにいるヒノエから聞こえる。
べたべたと貼られたポスターに、紫呉さんのグッズ。
「昨日は楽しかったか、紫鶴」
「…っ」
「楽しいよなあ、そりゃ。生紫呉だったしなあ…」
手を掴まれると、無理やり中の紙を取られる。
「かえし―――っ」
「あー、紫呉も手はええな…」
びりびりびり、と無常にも無残に紙はちぎられただの紙片になってしまう。
呆然とする僕に、
「お前が俺に興味がなかったのは知ってる。それでも付き合おうとしたのは俺だ。でもなあ、紫鶴。――――頭では理解してても、やっぱ腹立つんだよなぁ」
――――紫鶴。
おわり
ホラーエンドww
これで副会長短編集の更新は終わりでーす!全然ハッピーじゃない終わり方だこと。
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