04


「ヒノエっ、吹石さんの前で急に何言い出すの…っ!?」
「いいじゃん、何?ばれてなんか困るわけ?」
「……っ」
「な?なんもないだろ。大丈夫、情報が漏れることはないし」

そういう問題じゃないのに…。
吹石さんと別れてから、無理やりバルコニーにヒノエの手を引いて連れて行くと、なんだかすねたようなヒノエと目が合う。

「……もう、ほんとやめてよね…」

自信満々にヒノエがそういうから、僕はそう返すしかなかった。
まさか吹石さんの目の前で言うとは思ってなかったから、冷静になりきれてなかった。これじゃあ僕が吹石さんが大好きなのはばればれだ。まして吹石さんがゲイだと分かって、少しでも近づきたい、あわよくば恋人になりたいと思い出してる、今は。

「…紫鶴」
「…なに?」
「今、何考えてる」
「………内緒」
「……」

この日初めて、ヒノエの問いかけに自分の心のうちをさらけ出した。




見てわかるくらい不機嫌になったヒノエの相手は、それはもう疲れた。
大人がたくさん集まるパーティだ、お酒だってそりゃ出る。けどそれを浴びるほど飲んで泥酔するなんて、ヒノエらしくない。
べろんべろんに酔ったヒノエをまたバルコニーに連れ出し介抱する。
手すりに持たれてヒノエの背中をさすっていると、ぎゅううとお腹あたりに顔を当てて力強く抱きしめてくる。
本当に、ヒノエらしくない。
なんだかわかんないな、とふうと一つため息をついてよしよしとヒノエの頭を今度は撫でる。子供みたい、ちょっと可愛い。

「ヒノエ酔っぱらっちゃったみたいだね」
「――――っ!?」

下を向いて撫でていたせいか、誰かがいるなんて全く気付かなかった。
声だけで大好きな吹石さんだということがわかって、そのせいもあって肩が跳ね上がる。

「ふ、吹石さ…っ」
「まーだ未成年だし一応ここは社交場だ。人前でこんな醜態さらして、どういうつもりなんだろうねヒノエは」
「…そうですね」

お兄ちゃんみたいにヒノエを心配する吹石さんに、頬もゆるむ。
いいなあヒノエは、仲良しで。

「シヅルって、どういう漢字なの?」
「え?…あ、紫の、鶴です」
「へーそうなんだ。音の響きがいいからずっと頭に残ってた。紫鶴ってこれから呼んでいい?」
「あっ、はい!ぜひ…っ!」
「ふふ、可愛いね。俺の名前にも紫がついてるからおそろいだね」

そうやっていつの間にか隣にもたれた吹石さんが、にこりととろけるような笑顔で僕を見る。
こんな風に会話できるなんて、夢みたいだ……。
前までは手の届かない人だと思っていたけれど、今こうやって話している。触れる距離にいる。それがたまらなく幸せだと思う。

「紫同盟だね」
「くすくす、そうですね」

他愛のない会話をするこの時間が、終わってほしくないと思った。





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