01
ずっと好きな人がいた。
その人は男性だったけど、決して僕なんかじゃ手の届かない存在だけれど。
小学校の頃から、愛してやまない存在。
――――俳優の、吹石紫呉(ふきいし・しぐれ)さん。
アラサーとは思えない色気で幅広い世代から人気がある。
最近はバラエティにも出て、クールな2枚目だと思っていたのに意外とお茶目なところもあって、さらに人気に拍車をかけている。
小さいころ、一回実家の呉服屋に、撮影で使う衣装を見に来るために、わざわざ足を運んで実物を見に来てくれたことがあった。
当時10歳くらいの僕に「可愛いな」と頭をぽんぽんと撫でてくれた。その優しい手が今も忘れれずに、こうしてファンクラブなんか入って、テレビでも吹石さんのドラマは絶対リアルタイム+録画もして見逃すことなく全部見ていた。
浮いた噂なんてまったくない。
17歳のときにデビューして現在28歳だけど、その間に2回だけしか熱愛報道は報道されていない。
吹石さんが好きになる人なんだから、いい人に決まってる。
吹石さんファンは大人が多い分、そういう考えがどんどん広がっているから、熱愛報道ごときで右往左往されることはない。
吹石さんと今度一緒に共演する長谷川ヒノエなんかひどいもん。
月1で誰かと撮られてるほどのナンパ男。チャラチャラしてる男だから、吹石さんに何か迷惑をかけないか心配。
―――まあ、長谷川ヒノエって、僕の学校の生徒会長なんだけど。
「あー長谷川ヒノエなんていらないから、理事長に吹石さんがよかったよぉ…」
「なんか言ったか?」
「なにもです」
そして僕は、副会長兼、ヒノエの恋人(?)の若桜紫鶴(わかさ・しづる)という。
チャラチャラしてるヒノエに押しに押され、いつの間にか学園公認カップルとして認められてた。でもヒノエは芸能人だしきれいな人との出会いも豊富だし、それにあいつ、誘われたらすぐ乗るしね。下半身ちゃらちゃらー。
そんなヒノエは学園にはあんまいないから、僕も好き放題やってるし。
この距離感が、ちょうどいい気がする。僕たち。
ちなみにヒノエには、僕が熱狂的な吹石さんファンってことは内緒にしてる。
ヒノエって、自分は浮気するけど僕がそういうことしようとすると、むちゃくちゃ怒るもん。自己中すぎるよね、ちょっと。
だから僕の吹石さんコレクションとかは、旧僕の部屋に隠してある。
今ヒノエの寮部屋で暮らしてるも同様だし。
正直ヒノエの浮気なんてなんとも思ってない。これは、ほんとにほんとのこと。
僕が気になっているのは、今も昔も吹石さんのことだけ。
「…紫鶴…」
「なあにヒノエ」
「…なに考えてんだ」
「ヒノエのこと」
時々不安そうにヒノエが確認してくるけど、こう言っておけば大体黙るし。
お互い様、だよね。
back next
top