ずっと、死んでしまいたいと思っていた。
――――黒髪に黒目という、この国では忌み嫌われる色で生まれたぼくは、「悪魔の子」と呼ばれ蔑まれてきた。お母様は周囲の中傷や嫌がらせにやつれ、ぼくが幼い時に流行病にかかって亡くなった。最後までぼくのことを愛してくれた、心優しくて美しいお母様。お父様は生まれたときから一度も見たことがないから知らない。
6歳で天涯孤独の身となったぼくを引き取ってくれる人なんているはずもなく、ぼくは孤児院に入った。そこでも黒髪黒目のぼくは、せんせいにも同級生にも嫌われ続けた。
孤児院で過ごす日が1年経った頃。
ぼくに転機が訪れた。ぼくを引き取って育てたいというひとが現れたことで。
しかもそのひとは、この国の王様だった。
王様が直々に現れたことで、みんなが恐縮している。いつも偉ぶっている先生たちが頭を下げている姿を初めて見て、ぼくは驚いた。
「へ、陛下が、どうしてこんなところに…」
「噂を聞いてな。視察帰りに立ち寄った」
「は、はあ…」
きらきらとここにいる誰よりもきれいな男の人。身に着けている宝石のせいだけじゃなくて、王様自体がきれいなんだ。
綺麗な目でぼくを見つめながら、きれいに王様はわらった。
「お前は俺が飼ってやる」
「……え?」
充分な教養を受けていなかったぼくは、王様が言っている言葉が理解できなかった。
もっとも受けていても理解できなかったと思うけれど。
「お、お言葉ですが陛下、この子は黒髪黒目という不吉な―――」
「知っておる」
ああ、また孤児院のせんせいが嫌なことをゆってる。王様の返事を聞いたあとぼくを見て、いじわるな顔で笑っている。王様もぼくの方を見てにやって笑った。びくっと震えるぼくを見て、くくくといじわるに笑う。右手がぬっと伸びてきて、殴られると思って思わず目をつぶったけど、頭をぽすぽすと撫でられた。やさしいぬくもりに驚いていると、めじりにしわが寄って今度はやさしくわらってくれた。
その笑顔にほっとすると、そのままぼくの左手をとって真っ直ぐ進んでしまった。
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