from スプリング・ボーイ

「君くん。トリックオアトリート」
「8点。お前そんな簡単な英語も流暢に喋れねえのか」
「ちっがーう!そこはつっこむとこじゃない!」

男しかいない教室で、今日もマミは楽しそうに一人で笑っている。
可愛いとか思う前にそのばか能天気な笑顔に瞬間的につっこむと、ぎゃーぎゃーと間宮が文句を言ってくる。

「あー、ハロウィンか今日は」
「そーです。てことで君、トリックオアトリート!」
「あー食いかけのガムならあるけど」
「いっらねーよ!!」

べ、とガムを舌に乗せて見せると、すげえ速さでつっこまれた。
つっこみは鮮度が命だもんな。笑える、必死なマミ。

「おーマミ、飴ちゃんやるよー」
「わーい」
「マミー」
「おー」

この憎めない性格から、マミはクラスでも人気者だった。
ちっちぇ奴からごつい奴まで、お菓子を貰ってうはうは笑ってる。

「これ三枝センセにあげよーと思ってたけど、最近センセー付き合い悪いからマミくんにあげる」
「おーベリーセンキュー」

あ。三枝の名前が出て一瞬顔が強張った。けどすぐさま切り替えて笑顔を見せる。

「これ、三枝センセが好きなマフィンなんだけど」
「ぶっ」
「え、大丈夫マミくんっ」

このぶりっこ、わざとやってるんじゃねえか。

「そ、そーなんだ」

もう3か月前くらいのこととはいえ、やっぱり傷つくものはあるみたいで。
これはアウトだな。

だってこいつ、泣きそうなとき、無意識だろうけど裾を握りしめるんだよな。


「――――環(たまき)」
「…え」
「やるよ。好きだろ、これ」

ばらばらばらばら。
マミの好きな味の飴を、頭にばらばらと降らせる。

「いたーっ!」

そう言いながら俯くマミの頭を、ぐちゃぐしゃにしてやった。

「意地悪だ!」
「ハロウィンだからな」

トリックもトリートも、あげてやった。
にやりと笑う俺に対してマミも笑う。もう裾は握ってなかった。



おわり

環って名前の子、もういたっけ…?


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