04
あのとき、別れを言う前に言った会話を思い出す。
『なー』
『ん?』
『おれ、お前のこと好きだよ』
『…なんだ突然』
『言いたくなった』
『…俺も好きだ』
1日が2日になる前についた、最後の嘘。最後のキスをしたときに、あいつは珍しく不安そうにおれに向かって言ったんだ。
『……なあ』
『ん?』
『…さっきの、大好きって』
――――嘘か?
そうだ、あのときおれは。
何も言わずにあのまま笑って誤魔化しておけばよかったんだ。
どうせ別れる男なんだから。
――だけどおれはできなかった。
『そんな嘘はエイプリルフールについちゃだめなんだって。ついていいのは笑って許せるような軽いもんしかだめなの』
言い訳のように、そう言って。それを聞いて安心するこいつを見て、おれは確かに安心したんだ。
やり直そうとか、そんなことは今も思っていない。けど、嫌いになることはどうしてもできなかった。
半年以上あいつのいない毎日を送って、おれはあいつとのことは昇華できたと思った。きれいな思い出として、過去として。
だけど「過去」になったのは、あのときの悲しみとか、浮気されたことに対する怒りとか、そんなもので。
あのとき言った「好き」という言葉は、まだ、嘘じゃないぬくもりを持って、おれの中に今も残っていて。
それがしこりとなって、おれの心を蝕む。
だから目の前にいる男を、おれは、殴ることも、怒鳴ることもできず。
ただ静かに、見つめることしかできなかった。
おわり
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