03



「ふざけるなよ……お前、今日何しに来たんだ」
「……もう一度、お前とやり直しに」

ぬけぬけとそう都合のいいことを言う目の前の男に、ぶちぎれた。

「………おれが、」
「…?」
「――おれが、どんな思いでお前と別れたか、知ってんのか……っ!?お前に一言謝られたくらいで、元通りになると思ったのか……!?」

そこまで簡単な男だと思われていたのか、おれは。

「―――――俺は、どんなことをしても、お前は俺から離れて行かないと思ってた」
「……」
「………正直、お前と付き合ったときは、適当に相手をしてた。だけどあの日、お前の様子がいつもと違って、別れを告げられて、俺は、本当に、」
「―――聞きたくねえ…」
「……聞いてくれ、頼む……」

あいつの突然の懐古に、耳をふさぎたい気持ちになって叫ぶ。涙があふれた。だけどこいつの前では泣くものかと必死にこらえる。早く帰れ、はやく―――。だけど、あいつは、まるで懺悔のようにおれに懇願するから。握りしめた拳は、なんとも言えない気持ちでぶるぶると震えていた。

「あのとき、本当に、目の前が真っ暗になった。取り返しのつかないことをしたって、ようやく分かった。――――本当に、悪かった……」

そう言い切ると、目の前の、プライドが馬鹿高くて、俺様と呼ばれているあいつが、おれに向かって頭を下げた。

「俺が浮気をしたという事実は、変わらねえし許されようとも思ってねえ……。けど、頼むから、これからの俺を見ることはやめないでくれ……」

半年間、この半年間、本当に穏やかに過ごしてきた。
目の前の男を、ようやく忘れてきたと思ったのに。
―――忘れた、いいや、それには語弊がある。
――――思い出さないように、していた。
そうだ、おれは、思い出さないようにしていたのだ。携帯も壊して、家も引っ越して、あいつの痕跡をすべて消して、1からスタートしようとして。

忘れられることができないと知っていたから。
だから、変わりに思い出さないようにしていた。



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