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ぴんぽーん。
ベランダから颯爽と飛び降りたおれは、早々にあいつから逃げた。
家主のいない部屋で、みんなで飲んだのかなあいつら。そしたら笑える。
まあバイトで仲良くなったセンパイの家に泊まって、その日は事なきを得た。

けど、やーっぱりそんなんじゃだめなんですよねー。



「おい、」
「………」

それからまたしばらくたって、季節が秋から冬へと変わった頃。
今度は、おれのバイト先の居酒屋に、客として来た。
みんな手が離せないからって、たまたまおれが接客をすることになった。
「らっしゃいませー!」と居酒屋特有の熱い挨拶をかましたら、そこには仏頂面で一人立っているあいつ。
しまった。

「一名様でよろしいですかー!?」
「おい、」
「一名様はいりまーす!!」
「「「「らっしゃーーい!!」」」

それからあいつを席に案内して、おれは足早にキッチンに戻った。
内心はどきどきだったけど、それは久しぶりに会えた高揚から起きるもんじゃねえ。
(こええよ!!)
完璧に、びびっていた。



今日はキッチン担当だったから、あいつの接客をしなくて済んだのは唯一の救いだった。
一緒の時間にあがりだった男とは、家の報告が反対側だったから店の前で別れた。
ちらりと最後にあいつの座っていた席を見たけれど、いなかった。

「寒いですなー…あれオリオン座か…?」

星座といえば、夏の大三角形とオリオン座しか知らないおれの無知な独り言が、寒空の下響く。車の走る音しか聞こえない。大通りの奥に入ったとこに店があるから、無理はないけれど。

ぼーっとしながら歩いていると、後ろからおれを呼び止める声がした。

「気づいてんだろ、こっち向け」

何食わぬ顔でipodのイヤホンを耳に装着しようとして、聞こえないふりをしようとしたけれど、それはしびれを切らして駆け寄ってきたあいつによって阻止された。




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