ポッキーの正しい使い方悪い大人:
庵センセの場合。
「はい、ハルくん」
「ん?」
大学は推薦で決めたおかげで、受験生の追い込みだというこの時期ものんびりとしていられるハルは、今日も庵の高級マンションに連れ込まれている。
それでも前みたいに文句を言うことがなくなったのは、ハルの心境がちょっぴり変化したせいか。それともただの諦めか。もちろんこのことは庵も知っていたけれど、あえて何も言わなかった。
(無自覚だったりしたら、気づかせるより自分で気づく方がいいだろーし)
心の中ではそう言っているけれど、本当は自分に無意識のうちに惹かれているハルを見るのが好きだから、という悪趣味の方が占める割合は大きい。
そんな意地悪な庵の気持ちなんて知らずに、ぼけーっとふわふわのソファの上で体操座りをして雑誌を読んでいるハルに、温かいミルクティを淹れた庵がリビングに戻る。
「ありがとー」
「熱いから気を付けて」
はーい。素直な返事をし、ハルはそれを受け取る。
しばらくほのぼのとした雰囲気が流れる中、庵がふと話を切り出す。
「そういやハルくん、ポッキーゲームって知ってる?」
「…知ってるよ」
「それなら話は早い。やろうか」
「なんで!?」
当然反論するハルだけど、にこにこと目が笑っていない庵のほほえみに、勝てるわけがなかった。
「はい、あーんして」
「……あーん」
はむ、と一本ポッキーを咥えさせられる。
そのまま反対側を庵がくわえ、ぽきぽきと進んで行く。
だんだん短くなるにつれて、近くなる距離。
このままじゃキスしちゃう…!
キスなんて数えきれないほどしているけれど、まだ羞恥心を持っているハルは、早々にポッキーを折って負けを認めようとした。
けれど。
パキッと小気味いい音がし、ポッキーが折れると。
「―――んむっ!」
そのままポッキーを口に含んだまま、庵が思い切りハルの腕を引っ張り、キスをする。
驚いて開けた口にそのままキスをする。縦横無尽に口の中を荒らされ、ようやく唇が離されたときは、くてんと庵の体にもたれかかるようにダウンしてしまった。
「はあ…っ」
「息切れするほど感じてくれた?」
「…っな、なんでキス…っおれ、負けたのに…」
「ポッキーゲームって、勝ち負けってあるの?」
「……え?」
唇をぺろりと舐めながら、庵は息切れするハルの耳元に口を寄せて。
「はやく距離を縮めて、キスしてほしいって意味かと思っちゃった」
このひとには、一生勝てない。
ハルはそう、真っ赤な顔で悟ったのだった。
おわり
超ポジティブ庵さん。
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