あの人はいま。
4月2日のさようなら
携帯はあの夜、自宅近くの川に捨てた。スマートフォンデビューとかしちゃったりして。携帯ショップのお姉さん可愛かったなー。
家も実家暮らしじゃなくて、一人暮らしにした。悠々自適に暮らしてるし、今度友達と飲み会することにした。
バイトも新しく居酒屋を始めた。センパイに可愛い女の子がいてラッキー。
ぶっちゃけ、あいつと付き合ってた時よりも数倍毎日が充実してて楽しい。
「あー、これで彼女できれば完璧だなー」
「あれ、お前あいつとは?」
「別れた別れた」
ニューハウスで宅飲み中。ほろ酔いで気分が良くなってきたとき、口を滑らせて言った言葉に隣でプルダブを開けるのに苦戦している友達がおれの独り言に反応した。
そういえば言ってなかったなーと今更思い返したおれは、勢いでカミングアウトする。
「おれは一応付き合ってるからってあいつとしかヤってなかったのに、あいつは平気でヤるからねー。おれもそろそろ欲求不満よ」
「…まじか」
「おーまじまじ。だから全部痕跡消していなくなってやった」
あの日さよならしてから5ヵ月。
おれはあいつを忘れて日々を過ごしてきた。これでいい。
最初のほうは胸にしこりがあるみたいに、なにか気持ち悪かったけど、今はそれさえもどこかに行った。本当にあいつのことは「過去」になった。
その会話に、目の前の男が一気に顔を真っ青にさせる。
「…なした?」
「………いやー、やっちまった」
「あ?」
深刻そうな雰囲気に、ワラワラと各自盛り上がっていたダチもみな集まってくる。
「修羅場か修羅場ー」
「……まず最初に言っておく」
「ん?」
「すまん!!!!」
「…はあ?」
いきなし土下座した男に、おれもまわりのやつも目が点。
「今日お前のカレシから電話来てさー」
「……おい、てめえまさか」
「はい、今日ここで飲んでるってゆっちゃいました」
ぴんぽーん。
おわり
なんだこのホラーエンド。
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