06

「ちょっと新、茜のことはあきらめなよ」
「……」
「あのさ、あんたの元に茜が戻ってくることは100パーないんだから。ていうか、聞いてた?僕の話」
「漆原鶚といい感じなんだろ。わざわざあいつが言いに来た」
「…ふーん」

「だから新は最近めそめそしてたんですよ」いい笑顔だな、副総長。族っぽくないのに族なんだね、って聞いたら、血が好きなんですって…。うわあ、隼くんよりやばい人見つけちゃったよ。
話してみてわかったけど、新は馬鹿なだけだった…。
馬鹿な女にけしかけられて、浮気したら本当の相手の気持ちをわかるという言葉を信じて抱いていただけらしい。

「僕の中で、新はぶっ殺してやる復讐相手だったのに」
「は?」
「だって可愛い茜を泣かせて浮気する最低野郎だもん。本気で殺してやろうと思ってたけど、あんた馬鹿なだけじゃん」
「うるせえ!」
「そりゃ漆原に取られるよ。あいついい男だもん」
「そうですねえ」
「うん」
「…」

というか、僕は敵のアジトに一人来て、なに仲良くなっているんだろう。
新は馬鹿、副総長は怖い、幹部たちは面白い。

「葵、お前寮だろ。大丈夫なのか?」
「あー、もうバスないし」
「送ってってやりなさいよ、新」
「はあ!?」
「そうだよ、送ってよ。それでついでに茜に謝りなよ。許してもらえないと思うけど」

はい、と副総長がバイクのキーを新に投げる。それをうまく片手でキャッチした新は、ちっ、と舌打ちすると、そのまま外に出ていく。副総長が指で、着いて行きなさい、と示すのに笑いながら、素直じゃないなあと新の後について行った。



「新、今度はちゃんとした恋愛しなよ。まあ茜みたいないい子もう現れないと思うけど」
「うるせえ。……今度は、な」
「……そういえばさ、なんで今日僕じゃないって分かったの?見た目はほぼおんなじだし、今日僕たち初対面だからもうちょっとわからないと思ったんだけど」
「……目が、獰猛だった」
「は、はははは!!それ漆原にも言われたよ!!!!僕ってそんなに肉食獣っぽい!?」
「あー、なんか女王っぽいし、なんかピンヒール似合いそうだよな、お前」

とんちんかんな新の言葉にますます笑う。
手の力が抜けるのを阻止しながら帰る道は、絶えず僕の笑い声と新の切れた声が響いていた。

学園の前に戻る。
いたずらっ子な僕が前授業をさぼった時に見つけた秘密の裏口に停めてもらう。
茜が僕の姿を見つけて駆け寄って、そして後ろに気まずそうにいる新を見つけて足を止めた。

「ほら、言いなよ」
「…茜」
「な、なに……」

一言話すだけで怯える茜に、自分の犯した罪の重さを再確認する新。
復讐とか話していたことより、何よりもこの瞬間が一番の新に対する罰だと思った。
もう絶対友達にも戻れないし、話しかけることもできない。ここで新と茜の関係は一切断ち切られるんだ。

「今まで、悪かった。言い訳じゃないけど、俺、お前の気持ちを信じることができなくて、…」
「それで、クソビッチたちにけしかけられて、茜の気持ちを確かめる最適な方法とか言って浮気したらしいよ」
「……なに、それ…」
「ほんと、悪かった」

今まで下げたことがないだろう頭を、ちょこんと下げる新。
その頭をつかんで思いっきり地面の方に体重をかけてやった。

「もう、いいとかは言えないよ…。僕だって、本当に傷ついたし…。今は、また違う人と新しく頑張ろうって思ってるし」
「………………」
「でも、わざわざ来てくれてよかった。やっと本当に踏み出せることができる気がする」

ふわり、とかつて新が惚れたであろうほほえみを茜がした。
付き合ってからは決して見ることがなかっただろうほほえみに、新が思わずうつむいた。
泣き顔を見せないように、もう一度茜に頭を下げると、僕に近づき耳元で「ありがとな」と囁いて、バイクに跨り暗い道を消えていった。

「茜、泣いてる」
「…葵も、泣いてる」

泣きながら、二人で寮に戻った。
途中ぎょっとする生徒や、門限が過ぎていると寮監に怒られたけど、泣いてるからわかりませんっていう風に通した。




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