04
目が覚めたら、隼くんの腕の中だった。昨日泣き疲れてそのままあやされているうちに、眠ってしまったらしい。
「無断外泊しちゃったよ…茜心配してるかな……」
「お前が寝てた時、茜から電話かかってきたぜ」
「えっ!?」
「心配してたけど、俺が傍にいるから大丈夫って言ったら納得してたみたいだし。うまく寮監は誤魔化しておくってさ」
しれっと言った隼くんにびっくりしながら、僕は渡された携帯を見る。履歴を見てみれば、茜からの分刻みの電話とメールがたくさん入っていて。
それを見て切なくて、ちょっと泣いた。
「僕、復讐とかどーすればいいのかわかんなくなっちゃった……」
「………それは、あいつに同情したってことか?」
すう、と隼くんの目が細くなる。
目を合わせないようにそらしたけれど、長くてきれいな指に顎をとらえられて、無理矢理顔を上げさせられた。
「いいか、葵。あいつが茜のことに対して不器用ながら思ってたとしても、浮気したのも、茜を傷つけたのも事実だ。それは、償わせなければいけない」
「……はい」
「復讐とか、そういうサスペンスに発展しそうなことは別にやらなくてもいい。でも、話し合いは必要だ」
「…は、なしあい?」
「そう、話し合い」
どんどん別な方向に話がずれてっていると、もう一人の自分が冷静につっこんだけれど、今まで復讐という言葉にとらわれて、いかに相手をぶっつぶすしか考えていなかっただけに、目からうろこな状態だった。
「でも、僕、漆原にチームつぶすようにけしかけちゃったよ…」
「鶚が?めずらしいな、あいつが誰かのために働くなんて」
「多分漆原、茜のこと好きなんだと思う…」
「……へえー、そうか。なるほどなあ。まあチームはつぶしてもいいだろ、別に」
「そうかな?」
「結構問題だったしな、あいつのチーム。一般人にも迷惑かけたり警察沙汰になったりすることばっかやってて」
「ふーん……」
とりあえず僕は寮に戻ることにした。バス停まで見送ってくれた隼くんに手を振って、乗客が一人しかいないバスの後部座席に陣取って考える。
話し合い、とか言っても。やっぱり茜の彼氏をぎゃふんと言わせたい、というか、なんというか。とりあえずそういう思いはあるし。
でも隼くんを通して話を聞いたのは、茜がいなくなってだいぶ参っている、ということ。
じゃあ、漆原と一緒にいる茜を見せれば、どんな反応をするんだろう。
ぽ、と浮かんだ考えに、元の調子が戻ってきた気がした。
こんなの、全然復讐じゃないし、甘っちょろいし。
でも誰一人にも迷惑かけていない。確実に、あいつだけを、―――。
「茜、漆原鶚って知ってる?」
「ウルシバラガク?」
「Eクラスのさ、」
「…ああ!ナンバー1のチームのリーダー!」
「そうそう。そいつのこと、どう思う?」
「うーん………男らしくて、かっこいい!」
にこり、と茜が笑う。
その言葉に僕は後ろを振り向き、「だってさ」というと、後ろの死角からひょっこりと黒髪に紫メッシュの長身が現れる。
「どーも、褒めてくれてアリガト」
「わ、ちょ、葵……っ!!」
まさかの本人登場に、顔を真っ赤にし、別れてから初めて見た茜の本気のあわてように、あはははっと大笑いしてしまう。
それを見て漆原も笑ってる。というか最初の言葉といい、漆原僕のときと対応が違う。ほんとになんか照れてるし、恋する男って感じだし。
おんなじ双子なのに、みんな茜に惹かれてくってのは、やっぱり何かあるんだろうなあ。
僕も恋したいなー男でも女でもいいから。でもクソビッチを目の当たりにしたから、浮気しない男の人と付き合いたいよ。
楽しそうに話す二人を遠くで見ながら、そう思った。
それからというもの一緒にいるようになった漆原と茜。
最初周りは「Eクラスのリーダーが、」とか「釣り合ってない」などという声が漏れていたけれど、漆原の見たことのないような笑い顔と、最近見なかった楽しそうな茜の様子に、次第にその声は治まっていく。
その様子を隼くんに報告すると、電話口で嬉しそうに笑う声が鼓膜を震わせた。
僕はそれを何とも言えない気持ちで聞いていた。
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