03


おれは内心慌てていた。
あんな性欲魔人な千歳が、2ヶ月間も沈黙している…。
―――家に女を連れ込んでないだけで、実は他んとこで発散しているのか?
それとなく聞いてみたら、もう余分に突っ込むことはやめにしたんだって。
千歳のあっけらかんとした性事情に、はいそうですかとしか言えなかったおれ。だって千歳とおれじゃ、経験値が違うんだもの……。

それでもあんなに毎週のように違うやつを抱いていたプレイボーイが、2ヶ月間抱いてもないって、すげえ。
そこまで考えて、もしかしておれのあの言葉のせいで、女を自由に抱けなくなったんじゃねえのかな。と気づく。
やべーやべー、どうしよう。気を使ってもらってる…?
でも千歳がそんな我慢することねえよ!


とまあおれの心境を伝えたら、千歳はふっと自嘲気味に鼻で笑って

「まあ回りくどいことをしてた僕が悪いしね」
「……え?」

詩人かっていうくらい意味がわからないことをぽつぽつ漏らす千歳に、おれはまったくついていけない。
ちんぷんかんぷんだということが表情に出ていたのか、つまり、と千歳が言い直す。


「嫌われたくないんだよね、ホンメイに」
「え………」


えええええ!!!!
千歳本命いたのかよっ!!まじかまじかおれの知ってるやつ!?え、なに、本命に嫌われたくなくて手出したくなくて他で発散してたってこと!?
矢継ぎ早に聞きたいことをどんどん言っていくおれに、苦笑ぎみに千歳はゆっくりと全部答えてくれる。

「ずーっと前からいたよ。まあ、他の子を抱いてたのはそれもあったけど、……意識してほしかったからかなあ。………まあ全部無駄だったけど」

すげえ熱いソウルを持ってたんだなあ千歳って。感心するおれに、「だからさ」と身を寄せる。

「これから、直球で本命にアタックしてこうと思うんだよね」
「お、おう、が、頑張れ…??」

急に至近距離にきた千歳に内心びっくりしていると、おれの耳元で囁く。


「だから覚悟してね、ゆず♪」


甘い囁きを残すと、ぺろり、と耳を一舐めすると、離れていく。
濡れた場所に空気が触れて冷たい。


「……へ??」


なぜに舐められた?なぜに、本命って……言われた?
思わず口から洩れた疑問符に、千歳はにこりと笑うばかり。


「戦闘開始ってことだよ、ゆず」



……喉からこみ上げてくるもの。それは前みたいな嘔吐物じゃなくて、


「えええええこんなんありかよおおお!!!???」



心の底からの絶叫だった。




おわり


ありです。




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