ぱちりと唐突に目が覚めると、おれはなにかいい匂いの温かいものに抱かれていた。 すん、と鼻を動かす。…あいつが使ってるシャンプーの匂いか。それが漂うということは、…やっぱり、あいつがおれを抱きしめて寝てた。 最近千歳は、寝ぼけてかおれのベッドにもぐりこんでくるようになった。 「千歳(ちとせ)、起きろー」 「…んん……」 色っぽい声出すんじゃねえよ、ばか。 熟睡してるし起こすのはかわいそうかと、おれはもそもそとなぜかがっちりと抱きしめている腕を引き離そうとした。 だけどまたぎゅうぎゅうとまわされる腕。 「は〜〜な〜〜せ〜〜よ〜〜」 「……」 ベッドの上で男二人が攻防。はたから見たらなんて馬鹿らしいんだろう。 まわされた腕を甘噛みすると、びくんと反応して一瞬隙が出来た。その間に抜けようとするけれど、また腰に腕が回される。 毎回この攻防はあるけれど、結局おれが折れてる。 ―――こいつ、本当は起きてるんじゃないか……。 狸寝入り疑惑が浮上したけれど、もういいやーと思いおれももう一眠りすることにした。悩みすぎるとどうでもよくなるのです! 「―――ゆず、起きて」 「……あと、60分…」 「要求にしては多いね。ゆずの好きなフレンチトースト作ったよ」 「……起きるうう」 魔法の言葉に、布団の中に潜っていた頭をひょこっと出す。水色のストライプのエプロンを付けた千歳が、にこりと笑っておれを見下ろしてる。 最初に起きたときは朝6時くらいで、今は10時くらい…。結構寝たなー。 「ほら、ゆず」 「んー…」 ぼーっとする頭で、手をひっぱろうとする千歳に両腕を上げる。ぐいっと引っ張ってもらい、無理矢理起こしてもらう。 「ふふ、おいで」 「うー…」 ――寝起きのゆずほど、ちょろいものはないね。 ふふふときれいな笑顔で笑う千歳が、そんなことを考えていたなんて、おれは知る由もなかった。 ← | top | → ×
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