03


「あれー千景くんがいるーめっずらしー。吾妻が連れてきたん?」
「ああ。お前こそ」
「遊ぼうと思ってた子にドタキャンされてさー」

あははーとナンパな笑みを浮かべカウンターにやってくる羽柴さんから、無意識のうちにちゆを隠そうとしたけど無駄だった。

「あれー珍しいお客さんだー」

ちんまりと座って両手でココアを飲んでいるちゆは、きょとんと突然話しかけてきた羽柴さんを見上げる。
こくりと小首を傾げて、「おにいちゃんだあれ?髪の毛きれーね」と天使のほほえみ付きで話しかけてきた。

「………可愛い」
「うー?」
「……この子可愛い!!!!頂戴!!!!」

いきなり叫びだしたと思ったら、ぎゅーとちゆを抱きしめる羽柴さん。

「ふざけんな!!!変態!!」
「うわっ、びっくりしたー」

それに我慢できずにちゆを奪還し文句を言う。全く動じてないとばかりに、おれが悪いと言った風な純粋な目でこちらを見てくる。

「なにこの子、千景くんの…?」
「妹です」
「妹かー名前なんて言うのー?」
「おしえね「ちゆです!」……」

おれの言葉を遮って自己紹介をしたちゆ。そーかそーかちゆちゃんかーとでれでれな羽柴さんをよそにおれを振り返ると、褒めて褒めてとばかりに目をきらきらさせる。
ちゆいい子でしょ!だってじこしょーかいしたもん!
………ああ、可愛い。

「よしよし」
「えへへーにーにすきー」

ぎゅーと抱きしめてくるちゆに、おれもでれでれ。
周りもそんなちゆの様子に、いつもの顔が崩壊したレベルでゆるんでいる。

「千景くーん、ちゆちゃんって何歳ー?」
「?もうすぐ6歳ですけど…」
「そっかー、じゃああと10年かー」
「…!?」

不吉なカウントダウンを始める羽柴さんに、あいた口がふさがらない。
まさかこの人、本気で――――!?

「……ちびの未来は決まったな…」

後ろでぼそりと今まで空気だった潮さんが口を開く。

「残念ながら、あいつ本気だわ」

…まじかよ。

周りもちゆにでれでれな羽柴さんを、とうとう頭ラリったかとばかりの不審な目で見つめる。羽柴さんといえば、女好きのイメージだし、まさかロリコンだったとは…と言わんがごとくの目つきだ。

「はあ!?羽柴さんが本気なわけねえじゃ――」
「いや、あいつのあんな顔、ちっちぇえころから一緒にいるけど、見たことねえ」

そういえば潮さんと羽柴さんって、幼馴染だっけ。

「いやいやでもちゆはまだ5歳――」
「だから10年待つって言っただろ」
「……はあ!?」

女好きでたらしの羽柴さんができるわけないだろ、そんなこと!

「言っとくけど、おれは浮気とか好きな奴いるのに遊ぶような男、ちゆと付き合わせる気ねえすから!おい、聞いてんのかお前のことだよ!」

おれの言葉に固まった潮さんはよそに、でれでれな羽柴さんの肩を掴み無理矢理こっちに向かせる。

「どーせ10年もちゆしか見ねえなんて無理だろっ!」
「……ちゆちゃん」
「無視かよ!」
「なあにーはーくん」

はーくんだと……!?

「俺ね、ちゆちゃんのこと好きになっちゃったんだけど」
「ちゆー?」
「そお。でもさあ、俺、ちょーっと女好きと言うか、こう、ムラムラしやすいっていうか。さすがにちゆちゃんは抱けないから、ちゆちゃんが中学生くらいになるまでは、ちょーっとほかの人のお世話になっちゃっていいかなあ?」
「うー?」

な、なにを言ってるんだこの人は……!!!






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