「あれー千景くんがいるーめっずらしー。吾妻が連れてきたん?」 「ああ。お前こそ」 「遊ぼうと思ってた子にドタキャンされてさー」 あははーとナンパな笑みを浮かべカウンターにやってくる羽柴さんから、無意識のうちにちゆを隠そうとしたけど無駄だった。 「あれー珍しいお客さんだー」 ちんまりと座って両手でココアを飲んでいるちゆは、きょとんと突然話しかけてきた羽柴さんを見上げる。 こくりと小首を傾げて、「おにいちゃんだあれ?髪の毛きれーね」と天使のほほえみ付きで話しかけてきた。 「………可愛い」 「うー?」 「……この子可愛い!!!!頂戴!!!!」 いきなり叫びだしたと思ったら、ぎゅーとちゆを抱きしめる羽柴さん。 「ふざけんな!!!変態!!」 「うわっ、びっくりしたー」 それに我慢できずにちゆを奪還し文句を言う。全く動じてないとばかりに、おれが悪いと言った風な純粋な目でこちらを見てくる。 「なにこの子、千景くんの…?」 「妹です」 「妹かー名前なんて言うのー?」 「おしえね「ちゆです!」……」 おれの言葉を遮って自己紹介をしたちゆ。そーかそーかちゆちゃんかーとでれでれな羽柴さんをよそにおれを振り返ると、褒めて褒めてとばかりに目をきらきらさせる。 ちゆいい子でしょ!だってじこしょーかいしたもん! ………ああ、可愛い。 「よしよし」 「えへへーにーにすきー」 ぎゅーと抱きしめてくるちゆに、おれもでれでれ。 周りもそんなちゆの様子に、いつもの顔が崩壊したレベルでゆるんでいる。 「千景くーん、ちゆちゃんって何歳ー?」 「?もうすぐ6歳ですけど…」 「そっかー、じゃああと10年かー」 「…!?」 不吉なカウントダウンを始める羽柴さんに、あいた口がふさがらない。 まさかこの人、本気で――――!? 「……ちびの未来は決まったな…」 後ろでぼそりと今まで空気だった潮さんが口を開く。 「残念ながら、あいつ本気だわ」 …まじかよ。 周りもちゆにでれでれな羽柴さんを、とうとう頭ラリったかとばかりの不審な目で見つめる。羽柴さんといえば、女好きのイメージだし、まさかロリコンだったとは…と言わんがごとくの目つきだ。 「はあ!?羽柴さんが本気なわけねえじゃ――」 「いや、あいつのあんな顔、ちっちぇえころから一緒にいるけど、見たことねえ」 そういえば潮さんと羽柴さんって、幼馴染だっけ。 「いやいやでもちゆはまだ5歳――」 「だから10年待つって言っただろ」 「……はあ!?」 女好きでたらしの羽柴さんができるわけないだろ、そんなこと! 「言っとくけど、おれは浮気とか好きな奴いるのに遊ぶような男、ちゆと付き合わせる気ねえすから!おい、聞いてんのかお前のことだよ!」 おれの言葉に固まった潮さんはよそに、でれでれな羽柴さんの肩を掴み無理矢理こっちに向かせる。 「どーせ10年もちゆしか見ねえなんて無理だろっ!」 「……ちゆちゃん」 「無視かよ!」 「なあにーはーくん」 はーくんだと……!? 「俺ね、ちゆちゃんのこと好きになっちゃったんだけど」 「ちゆー?」 「そお。でもさあ、俺、ちょーっと女好きと言うか、こう、ムラムラしやすいっていうか。さすがにちゆちゃんは抱けないから、ちゆちゃんが中学生くらいになるまでは、ちょーっとほかの人のお世話になっちゃっていいかなあ?」 「うー?」 な、なにを言ってるんだこの人は……!!! ← | top | → ×
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