仕事がようやく片付いた次の日、俺は早速母校へと足を運んだ。 中庭にさしかかったとき、誰かの笑い声が聞こえる。 ―――日生。 俺があいつの声を聞き逃すはずがない。思った通り、あいつと、もう一人知らねえ男が二人で笑いあっている。 ぶっ殺してやろうか。そう思ったけれど、携帯を使って日生をびびらせるだけにする。 案の定、いい雰囲気をぶち壊してやった。 お楽しみはまだこれから。 今姿を見せたところで、ここじゃあ俺と日生の関係性を証明するには人が少なすぎる。周りを固めて雁字搦めにして、俺しかいないようにする。 着信56件、メール32件。 ストーカー並みの痕跡を残してやった。 これで日生は、俺のことしか考えていないだろ。 「よお、瀧」 「―っ紫せんぱ…」 「へえ、会長らしくやってんじゃねえか」 会長は瀧しか認めねえと、俺に言わせた実力の持つ後輩の成長をついでに見て行こうと生徒会室に立ち寄ると、慌てたように書類を片付け始める。 積み重なった書類の量に、こいつ最近さぼってやがるな、と呆れた。 「今日来たんですか…」 「ああ。仕事は全部終わらせてきた」 「っ!?3か月はかかるって言うやつですか?!」 「まあな」 1か月間休みなしで働けば楽勝だろんなもん。 ごきごきと首を左右に揺らし骨を鳴らす。 心なしか真っ青になる瀧を見て、笑ってやる。 「だからなあ、瀧。お前こんくらいの薄っぺらい書類くらい、さっさと片付けてみせろよ」 薄いと言っても厚さ10pはある、積み重なった書類を指差す。 瀧以外の役員たちが、俺を見てすぐさま自分の書類に取り掛かり始めた。 「俺は仮眠室で仕事してるから、飯時になったら呼べよ」 ひらひらと背中を向けながら後ろに手を振り、仮眠室の扉を開けた。 1ヶ月分の寝不足を取り戻すかのように、そのあと5時間爆睡した。 「…紫先輩、起きてください」 「―――――ああ」 生まれてこのかた、寝ぼけたことなんかねえ俺は一発でその声で目を覚ます。 ごきごきと首を鳴らしながら生徒会室を出ると、廊下にいた小柄な男と目が合った。 誰だったか、こいつ。 記憶を探ろうとすると、走ってどこか――そう、それは食堂の方に一直線に―――消えて行った。 「ああ……あいつ、ミチか」 「―――っ」 「なあ、俺言ったよな?」 ――――邪魔すると、容赦ないって。 声にしなくても俺の言いたいことが分かった瀧は、顔を青ざめた。 ほんとにお前、あいつのこと好きなんだな。 ← | top | → ×
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