02


塚原日生(つかはら・ひなせ)は入学当初から有名な男だった。
可憐だとか、儚いだとか、色々と噂が駆け巡っていた。
透き通るような白い肌に映える黒髪に、影を落とすほどの長い睫。華奢な体。
そのどれもが、餓えたこの学園では恰好の餌だった。

俺と日生が付き合いだしたことは、すぐに広まった。というか俺が広めた。
誰にも、邪魔をさせないように。
日生に変な虫がつかないように。
だけどその認識は甘かった。

日生が泣いた。原因は、俺のセフレが馬鹿なことを言ったから。
過去の話だ。今はやってねえ。
だけど後悔したって、もう遅い。
とりあえずセフレは解散させた。いくら性欲がたまっているからと言って、突っ込んでなくても舐めさせてたらだめだろと。
日生に手を出す奴は、俺のすべてを使って消すとも言っておいた。真っ青になって首を縦に振っていたから、大丈夫だろ。現にそのあと、嫌味を言われることはなくなったという。

そのあと、日生が俺が初めてではなかったということを聞いた。
中学の時、一度だけ抱かれたことがあるらしい。それを聞いたとき、俺は日生の初めてを奪った男に殺意が沸いた。
俺の部屋までは遠いし、日生の部屋は二人部屋だ。
絶対に邪魔されることなく、なおかつ逃げられないところ――――。

すぐに俺は生徒会室の仮眠室に日生を無理やり連れ込み、今まで我慢していたすべてを取り戻すように、日生を貪った。
一晩中ずっと、日生を離すことはなく。
日生を抱いた二日後の夕方、仕事にならなかったと生徒会の奴らに文句を言われるほど、ベッドの軋む音と喘ぎ声は迷惑だったらしい。

「せんぱ―――ん…っ」
「声我慢すんな……」
「せん、ぱ…」

涙で潤んだ瞳で、俺の背中に手をまわして熱を受け止める日生は、最高に色っぽかった。


「せんぱ……すき……っ」


それは日生が俺に言った、初めての愛の言葉だった。



今まで付き合っても、デートなんてしたことがねえ俺が初めて日生と遊びに行った。
いつも地元のダチとよく馬鹿騒ぎをするバーに行こうとしたが、そんな危険な場所には連れてけねえ。そう思ったが、あそこは夜だけがバーで、昼は確か洒落たカフェになってるはずだと、そこは安全だろと日生を連れて向かった。

顔なじみのマスターが、「今日はめずらしいお客だ」と話しかける。うるせえ。
にやにやしてる顔に、思い切りコーヒーをぶっかけてやろうとしたが、舌打ちで済ます。
「恋人」とか説明すると、すぐ周りに広まってめんどくせえ。無難に「後輩」って言うと、まったく納得してねえ顔で裏に引っ込んで行った。殺す。
目の前に座っている日生の顔をふと見ると、俯いて見えねえ。どうした?と聞くと、なんでもないという声。
それから日生は最後まで満面の笑みを浮かべることはなかった。






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