あいつが悩んでることなんて、最初から知っていた。 最初に付き合おうと言ったのも、俺から。 どこかで聞いたことのあるフレーズ。恋は「する」ものではなく「落ちる」もの。 ――――つまり、俺は、日生(ひなせ)に堕ちたのだ。 言葉なんていらない、理屈なんかじゃない。 ただどうしようもなく、初めて会ったときから、日生が欲しくてたまらなくなった。 俺はもともと性欲の強い方だから、溜まった時にすぐ消化できるような相手を何人も囲っていた。体の相性がよくて独占欲がない奴は、特定のセフレになった。だけど恋人にはなれない。ならせる気もない。そんなときに日生の存在を認知した。帝王とか馬鹿みてえなあだ名で呼ばれていた俺に、まったく興味ないと俺の横を素通りした、美しい儚い男。 大切に大切に、俺の手でこいつを愛そう。 それは、凶悪な独占欲と、愛だった。 ―――そう思った瞬間から、俺は日生に近づき始めた。 全く接点のなかった俺が急に話しかけたことで、初めは戸惑っていた日生だったが、徐々に慣れていくと、警戒がとれた猫のように柔和にその表情を変えていった。 満面の笑みは、まるで花がほころぶような可憐な美しさで。 ますます離せねえと、俺は確信した。 初めてそれを見たときは、今まで生きていて経験したことがないくらい、鼓動が速まった。 「我慢」なんて言葉、無縁だった俺が、日生に対してはすぐに手を出すことを渋るほど。 ――――嫌われたくなかったのだ。 あの笑顔を、失いたくなかった。 日生を見て、抱きたいと思う気持ちは当然沸く。だけどそれを急に本人にぶつけて、避けられたりしたら俺はどうなるか分からない。 前のようにセフレを使って、処理させた。 だけど抱こうと思っても、日生以外には勃たなくなった俺は、舐めさせるだけで関係を終わらせた。 「日生」 「はい」 「好きだ」 「………え」 気持ちを伝えたのは、出会って半年ほどたってから。 これまで愛の言葉なんて一度も使ったことがないからか、この言葉しか出てこなかった。 だけど真っ赤になって照れる日生がはにかむから。 俺はこれでいいかと、ようやく日生の唇に熱を落とした。 ここでも俺は舌をいれなかった。 ガキみたいに、唇を触れさせるだけで離した。 それでも真っ赤になる日生を見て、こいつは俺が全部初めてなのだと、怖がらせないように、ゆっくりと進めて行かねえと。 「禁欲」 その言葉が頭をよぎったが、まあいいか、と今はこの幸せに浸った。 ← | top | → ×
|