総ちゃんに手を引かれるまま、理事長室に行く。 秘書は今日は珍しくいなかった。 「あいつは今本社に戻ってる」 顔に出てたのか、なにも言わなかったのにダーリンが教えてくれた。 そのままおれはソファに座らされて、ダーリンがいつの間にか持ってきてた救急箱からマキロンとガーゼを取り出して、消毒してもらった。 傷口にしみる、と「いひゃっ!」と変な声を出して目をぎゅっとつぶる。 「…湊、痛かったか?」 「え?…うん、痛かった」 「セキュリティをもっと強化しておけばよかった。カードの暗証番号は書き換えたはずなのに…どっか漏れてたか…?」 ぶつぶつと自分を責めるように、独り言をつぶやくダーリン。 そんな顔しないで。 「ダーリン…そんな顔しちゃやだよ」 「…湊」 「殴られたのはおれなのに、なんだか死にそうな顔してる。総ちゃん」 いつも堂々としてて、自信家な総ちゃんはどうしたの。 「……お前が傷つけられるの見て、正気でいれるはずがないだろ…」 あの時は俺がいなかったから話でしか聞いてなかったけれど、今は違う。 守れる距離にいて、手の届く距離にいたのに、また湊に怪我させちまった…。 本当に悲痛そうに語る総ちゃんを見て、不謹慎だけど、嬉しいと思ってしまった。 「総ちゃん」 「ん?」 「おれね、嬉しいよ。総ちゃんがそんだけおれのこと思ってくれてるって、わかったから」 「湊…」 愛おしさがあふれ出てくる。もうなにが言いたいのかわからない。 だけど今、無性にキスしたい、この人に触れたい、奥までつながりたい。 欲求不満というよりは、なんというか。―――ぬくもりを分け合いたい。 そう思った。 「好き、好き。大好き総ちゃん」 「…湊―――」 「おれの傷跡みて顔ゆがめるんだったら、総ちゃんが塗り替えて。違う思い出にして」 ほら、とバンソーコーが貼ってある口元に総ちゃんの手を持ってくる。 優しく労わるように手がそこをなぞる。そのあと、やさしくキスを落とされた。 「…湊のこと、今日はめちゃくちゃにするよ」 「…いいよ」 だって総ちゃん、問いかけてるようで、拒否権はなかったよ。その聞き方。 「総ちゃん、もしおれが死んじゃったらどうする?」 「後を追う」 ぎゅーっと抱きしめられながら、我ながら女々しくて面倒だなーと思う質問を総ちゃんにぶつけてみた。 そしたら笑えるくらい即答された。 「なに笑ってんだ」 「だって総ちゃん、即答だし…」 「湊はどーなんだ」 「ん?おれもやだなー」 「だろ」 そうだね。結局おれたちって、お互いしか見えない位ラブラブってことで。 「よく死ぬ前に相手の幸せを祈るとかあんだろ」 「うん」 「俺はそんなの絶対嫌だ。俺がいない世界で幸せになる湊なんて、――虫唾が走るね」 本気で嫌そうに、顔を顰めて総ちゃんが言う。 おれもそうだねーって、笑った。 死んで冷たくなったおれに、やさしくキスをして。 そしたらきっと、覚めてみせるから。 おわり 半年ぶりに書いたせいか口調が迷子…orz ← | top | → ×
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