03


総ちゃんに手を引かれるまま、理事長室に行く。
秘書は今日は珍しくいなかった。

「あいつは今本社に戻ってる」

顔に出てたのか、なにも言わなかったのにダーリンが教えてくれた。
そのままおれはソファに座らされて、ダーリンがいつの間にか持ってきてた救急箱からマキロンとガーゼを取り出して、消毒してもらった。
傷口にしみる、と「いひゃっ!」と変な声を出して目をぎゅっとつぶる。

「…湊、痛かったか?」
「え?…うん、痛かった」
「セキュリティをもっと強化しておけばよかった。カードの暗証番号は書き換えたはずなのに…どっか漏れてたか…?」

ぶつぶつと自分を責めるように、独り言をつぶやくダーリン。
そんな顔しないで。

「ダーリン…そんな顔しちゃやだよ」
「…湊」
「殴られたのはおれなのに、なんだか死にそうな顔してる。総ちゃん」

いつも堂々としてて、自信家な総ちゃんはどうしたの。

「……お前が傷つけられるの見て、正気でいれるはずがないだろ…」

あの時は俺がいなかったから話でしか聞いてなかったけれど、今は違う。
守れる距離にいて、手の届く距離にいたのに、また湊に怪我させちまった…。
本当に悲痛そうに語る総ちゃんを見て、不謹慎だけど、嬉しいと思ってしまった。

「総ちゃん」
「ん?」
「おれね、嬉しいよ。総ちゃんがそんだけおれのこと思ってくれてるって、わかったから」
「湊…」

愛おしさがあふれ出てくる。もうなにが言いたいのかわからない。
だけど今、無性にキスしたい、この人に触れたい、奥までつながりたい。
欲求不満というよりは、なんというか。―――ぬくもりを分け合いたい。
そう思った。

「好き、好き。大好き総ちゃん」
「…湊―――」
「おれの傷跡みて顔ゆがめるんだったら、総ちゃんが塗り替えて。違う思い出にして」

ほら、とバンソーコーが貼ってある口元に総ちゃんの手を持ってくる。
優しく労わるように手がそこをなぞる。そのあと、やさしくキスを落とされた。

「…湊のこと、今日はめちゃくちゃにするよ」
「…いいよ」

だって総ちゃん、問いかけてるようで、拒否権はなかったよ。その聞き方。



「総ちゃん、もしおれが死んじゃったらどうする?」
「後を追う」

ぎゅーっと抱きしめられながら、我ながら女々しくて面倒だなーと思う質問を総ちゃんにぶつけてみた。
そしたら笑えるくらい即答された。

「なに笑ってんだ」
「だって総ちゃん、即答だし…」
「湊はどーなんだ」
「ん?おれもやだなー」
「だろ」

そうだね。結局おれたちって、お互いしか見えない位ラブラブってことで。

「よく死ぬ前に相手の幸せを祈るとかあんだろ」
「うん」
「俺はそんなの絶対嫌だ。俺がいない世界で幸せになる湊なんて、――虫唾が走るね」

本気で嫌そうに、顔を顰めて総ちゃんが言う。
おれもそうだねーって、笑った。


死んで冷たくなったおれに、やさしくキスをして。
そしたらきっと、覚めてみせるから。


おわり



半年ぶりに書いたせいか口調が迷子…orz



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