04


「―――いてえ!」
「あーやっぱくれえなーここ…ほこりくせえけど我慢しろよ」
「は―――!?」

ぐいっと上に伸し掛かられ、蓮はようやく自分が今一ノ瀬に押し倒されていることに気づいたのだった。

「ちょ―――!」
「あー暴れんなって、余計興奮するから」
「なにい…っ」

いきなしシャツの中に手を突っ込まれ、大げさなほど体が跳ね上がる。
それに「敏感ー?」とくつくつと笑いながら這う、自分のじゃない手にぞくぞくと背中が震える。
泣きそうになるのを堪えながら必死に足をバタバタさせながら抵抗するが、上から伸し掛かられしかも自分よりも身長が高く筋肉質な体に、勝てるはずがない。

「なんでこんな――っそんなにおれがきら―――」
「ちげーちげー。なにその面白い勘違い」
「はっ!?だったら―――」

顔をぐっと近づけられ、一気に距離が縮まる。
それにたじろいで上にずれようとすると、顎に手をかけられ無理やり上を向かされる。

「蓮チャンが可愛くないこと言うからー、ついねー」

押し倒しちゃったよ。

「かわいくな―――」
「嫌いって俺に言われて、可愛く泣いてくれる蓮チャンが見たかったのになァ俺は。なにあっさり引いちゃってんの」

可愛く?泣く?

「はっ、おれが泣くわけ――」
「蓮チャン、今までばれてないと思ってたわけ?」
「え?」

本気で分からないと声を漏らすと、はあとバカな子を見るような目つきで一ノ瀬が蓮を見た。

「生徒会のやつら帰したあと、一人で残ってスカイプかなんかやってたっしょ」
「――――!?!?」
「蓮チャン集中してて、ぜーんぜん俺が外にいるの気づかねえもん。一回覗き込んだとき、蓮チャンボロ泣きだったしねー」
「い、いつか―――!?」
「就任して1週間くらい経った後か?俺にあんな口叩く奴初めてだったから、最初から興味持っててよォ、生徒会室いこーとしたらなんか声が漏れてんの。で盗み聞きしてたら、ね」

あっけらかんと言われる事実に、蓮はどうしたらいいのか分からないと顔を赤らめたり青ざめたりと忙しい。
――おれが演技していることを一ノ瀬センパイは知っていて、なのにおれはなにも知らないで…。
耐えがたい羞恥プレイだ。

「すぐ啼く子は好きだけど、泣く子は嫌いだったんだけどねー」
「?」

音に出せば同じ「なく」だから、理解ができないと眉を寄せる。それに特になにも返すことがなく独り言として終わらせると、首元に思い切り吸い付き、濃いキスマークをつける。

「痛―――っ!」
「おー、色白いからやっぱ映えんな」

上機嫌に自分の吸い付いた跡をすーっと指で辿る一ノ瀬。その動きにさえ変な声が漏れてしまう。それに真っ赤になりながら、今度こそ涙を零す。

「離せ…っ」
「おー、泣いた顔もやっぱ可愛いなー」

泣いても許してあげないけどなー。
にこりと悪魔のような通知をしてそのまま覆いかぶさってくる一ノ瀬に、思い切り悲鳴を上げる蓮。

その声にバタバタと駆けつけた両部下たち。
風紀委員長が生徒会長を襲っているという信じられない光景に、蓮が泣いているというまたもや衝撃的なシーンはかき消されたようで、次の日学園内では蓮の噂はひとつも流れていなかった。
そのかわり、

「蓮チャーン」
「姉さん!!助けて!!」

ドンドンと蓮の部屋の扉を叩く一ノ瀬と、必死で画面の向こうにいる姉に助けを呼ぶ蓮の姿があった。


おわり

俺様会長むずかしい…。



- 42 -

top | →

×
- ナノ -