02


初めて会ったのは、生徒会、風紀が発足して初めての定例会でのことだった。
風紀委員長である一ノ瀬がなかなか現れず、いつまでも始めれなかったことで役員たちのイライラがピークになっていたとき。
20分ほど本来の開始時間を過ぎてから一ノ瀬がのこのことやってきた。
喧嘩も強く美形で金持ち、頭もよく将来も有望。ヒエラルキーで言えば一番上にいる一ノ瀬に文句を言えるものはなかなかいなかった。
例え首元にキスマークがちらばってけだるげな色気を振りまきながらやってきたとしても。


生徒会メンバーは不快に顔をゆがませ、風紀メンバーは目を逸らす。
誰も文句を言わず、雰囲気は変わらずぴりぴりとしているが始まろうとしたとき。

「待て」

一言、蓮が制止をかける。
皆の視線を一斉に浴びながら、もてあますように組んでいた長い脚はそのままに、その場で頬杖を突きながら一ノ瀬を見る。
ちょうど反対側に座っている一ノ瀬とばっちし目が合うと、挑戦的に目を細ませる。

「アンタのせいでこっちは20分も待たされてんだけど。なんか一言詫びるとかあんだろ。前後の腰振り運動に時間も忘れて勤しんでたのは分かるけど、もっと考えて行動しろよ。発情期の猿かよ」

そう言い捨てると、一ノ瀬の反応を全く見ずに司会に「もういい」と会議を進めるように促すが、空気は凍ったままである。

「…テメェが今年の生徒会長の、日向蓮か」
「ああ」
「……年上には、敬語って習わなかったか?」
「約束の時間はきちんと守りましょうって習わなかったか?」

二人の間には、見えない火花が散っていた。



―――このときの蓮は演技などしていない。
根が真面目な蓮は、遅刻しても悪びれず中に入ってきた一ノ瀬の態度が鼻についた。というのもあるが、昨夜姉3人に洗脳のように「俺様になれ俺様になれ」と唱えられたせいで、一種の暗示にかかってしまっていたのだ。
ずっと俺様言葉というものを読まされ、延々と会長とはどうであるかと説かれ、蓮はさすがにイライラとした気持ちでいっぱいだった。
そしてとどめの遅刻。それには蓮の堪忍袋の緒も切れた。
そうして最初で最後の、演技ではない「俺様会長」が出来上がったのだ。

だけどそれは、ただ一度きり。
会議が終わり部屋に戻った時は、後悔の念でいっぱいだった。
それを姉に話すと、「幸先のいいスタートね!」ときゃっきゃと喜ばれたのでそのときは泣いた。

それから一ノ瀬には目をつけられ、毎回会うたびに嫌味を言われる始末。
魔法がとけた蓮には、それが苦痛でしかたなかった。

「もーおれ風紀委員長と話してると、罪悪感で胃がキリキリするもん…」
『えー?じゃあやめよっかー。蓮ちゃんがストレスでおかしくなっちゃったら大変だもの!』
『じゃあ次は副会長とか?わたし最近ツンデレ副会長好きでねー』
『良いねそれーっ!』
「やだよもう…ううっ…」

当人をほおって始まる腐談義に、涙を流すしかない蓮だった。




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