「どうしたんですか?」 「あー、久しぶりに榑林と会ったから、飯でも一緒に食いたいなーと思ったんですけど…西村さんと食べに行くのかな?」 「そうですねー…」 ちらりとこっちを見てくる西村センパイ。 ちょっと待って、もしかして、 「まあ俺はいつでも会社で会えるし、感動の再会だと思うんで、今日はやめておきます。二人でゆっくり食事でもしてください」 やっぱりーーーー!!!!!! 空気が読める社会人の鑑の先輩。そこが尊敬できるし好きだけど、今日くらいは…。 うげえ、と思わず顔をゆがめたおれとは対照的に、わざとらしいと思うくらいに爽やかな笑顔で「ありがとうございます、すみませんわざわざ」なんてお礼を言っている雅也センパイ。 昔と変わらない爽やかな笑顔。 そこにおれは惹かれてたんだよなー。 変わってないことに安心しながら、去っていく西村センパイの背中を見送った。 「さて、移動しようか、ミチ」 「は、はい」 忠道(ただみち)だからミチ。 今までセンパイしか呼んだことのないあだ名を、6年ぶりに呼ばれると胸がこそばゆい。 ―――高校時代の雅也センパイはバスケ部で、キャプテンとして慕われていた。かっこいいからモテモテで、親衛隊とか言う子たちがセンパイを守ってる程だった。 センパイとおれは二年違うから、おれはセンパイの2年間を知らない。どれだけもてていたかも、誰と関係を持っていたかも。だけどそーゆーのって、噂で回ってくるんだよね。実際センパイより取り見取りだったらしいし。詳しいことは知りたくないって、あんま聞いてなかったからわかんない。 好きって言っても、遊ばれるかふられるかと思ってたから、言うつもりはなかった。 だけど勢いというかノリで言ったら、まさかの両想いでカップルになっちゃって。 おれも顔は悪くない方だったから、少しは嫌味とか言われたりしたけど、おれの親衛隊の子が止めてくれたり、センパイが何か言ってくれたらしくて、嫌がらせはぱたっとやんだ。 爽やか好青年な、スポーツマン。汗がきらきら光ってるよーな青春ドラマの主人公みたいな男。それがおれの中のセンパイだった。 そんな人だから人気あるのは当然。 それに不釣り合いだといたたまれなくなって、親の転勤にこれ幸いと何も言わずに逃げたのは、おれ自身。 だから何を言われても、仕方ないと思ってる。 ← | top | → ×
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