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大好きだったセンパイが、豹変していた。




会社の取引先の相手として来た、ストライプのスーツを着こなす、おれが憧れていたできる男そのもののひと。
ちょっとときめいたけど、名前を聞いて凍りついた。

「はじめまし」
「て、じゃないですよ」
「え…?」

最初の挨拶を言えず戸惑うおれに、にこりからにやりという笑い方になった、理想の男。


「久しぶりだな、ミチ」



それが元カレの雅也センパイだった。



「え、え」
「なんだ榑林(くればやし)、知り合いか?」
「あ、は、はい、高校のときの、センパ、でした…」
会社のセンパイの西村さんに話し掛けられて、テンパりながら説明する。
センパイと言った瞬間、視線が強くなったのを感じた。


睨まれるのも、仕方ないと思う。
だっておれは、センパイに恋するのが嫌で、逃げたんだから。




生きた心地のしない会談が終わり、ほっと一息をつく。
出されたお茶にも口つけることなく、早く終われと話していたから、喉がカラカラだ。

「榑林ーなんかげっそりしてんなー」
「えっ!わ、わかりますか」
「うん。今日は直帰でいいし、飯食いに行くか」
「え!ほんとーですかっ!センパイの奢り?」
「お前小首傾げてねだるとか、どこでんな上級テク身につけたんだ」

わーったわーった、奢るよ。可愛い後輩だしなーお前は。
「後輩」は残念だけど、ただの後輩じゃないもんねおれ!可愛いんだも!
ちっちゃな変化に気づいてくれたのと、わしゃわしゃ頭を撫でられることに、嬉しくて顔がにんまりしちゃう。
男しか好きになれないおれとは違って、センパイは今まで付き合ってきたのはみんな女の人だし。
だからおれがいいな、と思ってるのも、ぜんぶ秘密なのだ。


そこまで思って気づいた。
もし、おれと雅也センパイが付き合っていたということが西村センパイにばれたら、どうしよう。
軽蔑される?ホモって、警戒される?

――――どうしよう。付き合えなくても、今の距離を失いたくない。
ちらりとよぎる不安要素。
でも、取引は終わったからもう二度と直接会うことはないだろうし…。
不安だったけど、もう過去は振り返らない、と雅也センパイの会社に背を向けて歩き出そうとしたとき。後ろから、聞きなれた声が聞こえた。


「榑林、」
「あ、高槻(たかつき)さん」

いち早く反応したのは西村センパイだった。呆然とするおれをよそに、ぺこりと頭を下げる。小声で「榑林」と呼ばれるのに、慌ててつられるようにおれも下げる。
苦笑ぎみに「もう仕事は終わったんですから」と雅也センパイが漏らしたのが分かった。


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