01


「なあ、こっちでほんとに合ってるのか?」
「合ってるよ」

そんなこと言われても、もう20分も歩いてるぞ。
駅から徒歩2分の喫茶店で待ち合わせしてるはずなのに。
にやにやしてるあいつの顔を見て、騙されたとよくやく気づいた。

隣にいる長身の全身真っ黒な男に話しかける。
待ち合わせ時間に遅れそうだから、最短距離で頼むって言ったのに、あいつは素知らぬ顔でおれを無視して余裕だ。
お前の道案内を信じたおれがあほだった…。
とりあえず電話をしなければ、と隣にいる男に話しかける。

「なあ、」
「あ、あの子可愛い」

はやく連絡をしなきゃ、あの人は帰っちゃうかもしれないのに。
あいつはさっきから、連絡を取ろうとするおれを無視して、いろんな女の子に声をかけようとする始末。
絶対嫌がらせだ。

どんどん駅から遠くなっていくのに、もっと早く気付けばよかった。
あいつが「俺が道案内してやるよ」って言ったから、おかしいとは思ったんだよ。
いつも女のことしか見てないし、おれと二人暮らししてる部屋に平気で女連れ込んでいちゃいちゃしてるやつだし。

「あーもう別のやつにしようかな…」

友達の持ってたあの男の人みたいなのがいいな。
やさしそうに友達を見守ってて、知的な優等生みたいな雰囲気で。
おれ、こいつみたいな俺様男、嫌いなんだもん。
でもまあ2年間使わないとお金いるし。貧乏学生なおれは、2年間はこいつと一緒に生活しなきゃだめだし。

ぽつりとそう呟いたら、今まで女の子と話してたあいつが勢いよく振り向いた。
え、なに。
女の子も今まで自分をかまっていたイケメンが急にただのツレのおれに関心を向けたから驚いてる。

「お前、俺を捨てる気かっ」
「…えー?」

なにその、恋人に別れを告げられた男みたいなセリフ。
ほってかれた女の子がかわいそうだろ。放置か。

「だってお前、全然おれの話聞かないし」
「……なに言ってた」
「電話したいんだけど」

そういうと、しぶしぶ待ち合わせしているあの人に電話を繋げてくれた。

「ごめんっ、ちょっと道に迷っちゃって、うん、ごめんね、すぐ行く!またねっ」

電話越しのあの人は笑いながら対応してくれたから、よかった。
しかもおれのいる場所から待ち合わせ場所への道も簡単に教えてくれた。なんだ、すっごい遠回りをしているだけで、待ち合わせ場所にはちゃんと向かってたんだ。
なんでそんな遠回りしてるのって笑われたけど、それはこの男に言ってほしいよ。

電話を切ると、あいつがむっすりとしておれをじっと見てた。

「ごめん、お前はあの女の子と話してていいよ。じゃあな!」

電話をしてるときは、あいつはその場から動けない。
切ったあとは自由だから好きにしていいよという意味も込めてそういうと、ダッシュで向かう。
だけどその腕は掴まれて、そんなことするのは一人しかいないから、なんだよと振り向く。

「なんだよ、離せって」
「……俺も行くに決まってんだろ」

ボケ。
そう言って強烈なデコピンを食らった。なんでんな怒ってんだよお前…。



- 31 -

top

×
- ナノ -