02


軽快な音楽が遠くから聞こえる。
どうやらお風呂が沸いた合図のメロディーみたい。
そわそわしてた足が、ぴーんと伸びる。びっくりした。

「ごめん、びっくりさせた?だいぶ待たせたね、ごめんね」

そんなことない、と首を振ると、いい子だねと頭を撫でられた。
庵さんの服だからか、だるんだるんだ。肩がずり落ちそう。
同じ男なのにここまで違うのか…ちょっとショック。
よいしょ、となぜかいつのまにか正座していた足を崩すために前に両手をついてしびれを緩和させていた。

「眼福だね」
「へ?」

お風呂を見に行った庵さんが帰ってまたおれの隣に座った時、初めにそう言われた。
あとから聞いたら、前かがみになるおれの胸元から、見事に乳首が見えてたらしい。
それをにやにやして言うなんて変態だ。
(お風呂に入ってたから、変態と叫ぶとぼわーんとエコーがかかって予想外に大きく響いてしまった。そのせいでさらに攻められてのぼせたのは、後日談)


「バスタオルはあとで用意しておくから、はやくあったまっておいで」
「あ、ありがとう…」
「いいよ」

お風呂は前入ったから場所わかるよね?
その質問に、前のことも事細かに思い出しちゃって真っ赤になる。
立ち上がって廊下に出るためのドアを開こうとしたとき、ふと

「庵さんは…」
「ん?」
「庵さんは…、入らないの?」

そんな言葉が口から出た。
目を丸くした庵さん。なんかレアだ。

「おれ抱えて、濡れたでしょ…。庵さんの家なんだから、先に入ってよ…」
「…ハルくん、なにそれ。一緒に入ろうって誘ってる?」
「そ!?そ、そんなんじゃない…けど…」

そんなこと思ってなかった、けどここから立ち去ることができないのも本当。足が地面に縫い付けられたように動かない。
なんだ。
心臓がばくばくいってる。
庵さんの顔が見えない。おれ、手震えてる?

多分おれはもう知っているのだ。
おれがこういったら、絶対に

「――――ハル」

真剣な目でおれを射抜いてくる庵さんの顔とか。
ハルって言われるのが、なんだかくすぐったいとか。
相崎のことを、思い返すことが格段に減ったこととか。



「――――――いいよ。あっためてあげる」




庵さんのせいで、おれ、悪い子になっちゃった?



おわり


あはーん。
さあて相崎は話が進むごとに空気になっていきます。



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