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相崎に噴水に突き落とされてびちょびちょに濡れたからだをあっためるためだと、庵さんの家に半ば無理やり連れて行かれた。
もう二度と行くことはないと思っていた、豪華マンションに再び足を踏み入れる。
すごいなー、こんなマンションに住むなんて。どんな職業に就いたらここに住めるんだろう…。
前来た時は頭の中がはてなでいっぱいで混乱して、こんなのんきなこと考えてる余裕がなかったから、今はその分冷静だ。ちょっと寒くて身震いしてきたけど。

「寒い?もう少しだからね」

ふわりと庵さんのコロンが香る、上質なスーツの上着を肩にかけられる。
あったかい。

「ありがとうございます…」
「なんで敬語?」
「いや、年上だし…」
「俺ハルくんからタメ口使われるの気に入ってたのに」

啼かせてやりたいなーって、いっつも思ってた。
エレベーターの密室の中、耳元で囁かれた声に身震いしたのは、寒いからじゃない。

「…おれ、そういうのもういいですから」
「そういうのって?」
「えっち、しに来たわけじゃないですから」
「君は中学生みたいに恥じらうね」

そこも可愛いけど。
わしゃわしゃと髪を撫でられる。なんだか誤魔化された気分になったけど、庵さんは上昇するボタンの光を真っ直ぐ見ていて目が合わなかったから、そうたいした意味はないんだなあとその疑問は昇華していった。


「どーぞ」
「どうも…」

ガチャリと扉が開く。基本は白でまとめられていて、ところどころに色がちりばめられている、センスのある部屋。

「モデルハウスみたい」
「はは、前も言ってたよ、それ」
「そ、そうだっけ」

同じ感想を言ってしまうなんて、あほ丸出しじゃんおれ…。
くしゅんっと小さくくしゃみをしたら、ちょっと待っててと言われてソファに座らされた。そのあとなにかを持って庵さんがどこかの部屋から出てきた。あそこは確か寝室だった気がする。

「お風呂沸かすの時間かかるから、とりあえず濡れた服脱ぎな」
「あ、はい、ありがとうございます」

見るからにおっきいVネックのセーターと、ジャージを差し出される。
そのまま脱ごうとすると、庵さんがおれからちっとも目を逸らそうとしないから不審に思って顔を上げると

「ああごめん。ハルくんは素直だなーと思って」
「…え?」
「普通、自分に好意を持ってる男の前で服を脱ごうなんて思わないよ。それによく言うでしょ、服をプレゼントするのは脱がせたいからだって」
「え」

ボタンをはずしていた手が、その言葉を聞いて思わず動きが止まった。
庵さんは真剣な目でおれを見てくる。冗談でしょ、と笑い飛ばそうと思ったのに、それもできなかった。
固まったおれを見て、空気を和らげてくれた。けれど、おれの心臓はばくばくとうるさい。

「…なかなか生殺しの状態だね」
「…え…?」
「キスマーク。白い肌だから映えるね」
「?―――っ!!」

中途半端に開いた状態の胸元から、庵さんにつけられたキスマークが見えていた。
慌てて脱いで庵さんから渡された服をかぶる。
そんなおれの様子に、おかしくて仕方ないと庵さんがはははと笑った。



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