「…っ!」 普段の唯織からは思いもよらないほど俊敏な動きで携帯を取る。 「隼杜さん専用着メロ」 こそっと瀬川が教えると、皆一様にああーっと納得したようにうなずいた。 「…隼杜くん…?」 『はよ、唯織』 「おはようって…もうお昼だよ…?」 『ははっ、それもそーか』 「どうしたの…?」 ぽ、と頬を染めながら会話をする唯織の様子に、自然と頬を緩ませる生徒たち。 生徒会メンバーはあまりにも可愛らしい唯織に、色々とこみ上げる気持ちを押し込もうと耐えていた。 『唯織、泣いた?』 「え…」 『声が、なんか泣いた後みたいだったから』 声だけで自分の様子をわかってくれる。 愛されてると感じられる一言を、僕が傷ついているときにいつも与えてくれる。 「隼杜くん…」 『ん?なした?』 優しさあふれる声で問いかける隼杜の声に、また罪悪感の涙がこみ上げる。 「ごめん、僕、隼杜くんに貰った、大切なブレス…っ、壊しちゃった……」 『―――…』 「ごめんなさい…」 嫌われた…? 不安に思って瀬川の方を見ると、大丈夫、とばかりに親指をぐっと突き立てられる。 それにふふ、と少し笑うと 『唯織』 「ぁ、はい…」 『今度はさ、壊れないような頑丈なものあげるから』 「…え…?」 『そうだな…―――指輪とかだったら、壊れることはないよな』 「―――っ」 『ははっ、今度選びに行くか、一緒にな』 撮影始まりまーすという声が遠くで聞こえた。 『じゃ、また電話するな。愛してるよ、唯織』 「僕も…ちゅっ」 『あー、早く会ってほんとにキスされてえなー。…またな』 ちゅ、リップ音で締めくくられ、通話が切れる。 放心状態の唯織に瀬川が声をかけると、ぽやーっと心ここにあらずという感じで 「指輪…今度、選びに行くことになっちゃった…」 ぽろり、と今度は違う感情での涙を一粒零した。 「おめでとー!!」 喜ぶ瀬川や生徒たち。 生徒会メンバーはなぜだか少し悔しそうな顔をして唯織を見ていたけれど、そんな様子を誰一人気に掛けることもない。 ―――連休明けの月曜日。 唯織の左手の薬指に、きらきらひかる指輪がはめられていた。 end 親衛隊は愛でるもの。 どうしても親衛隊を甘やかしてしまう…。 ← | top | → ×
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