「瀬川くん、それで、ハヤトって誰なんです…?」 空気を読んで今まで黙って状況を見ていた唯織の親衛隊長が、ようやく口を開き一番聞きたかったことを聞く。 「隼杜くんは、僕の大切な人、です…」 その疑問に答えたのは、瀬川ではなく唯織だった。 「僕、あんまり人と話すの、苦手だし、なんだかみんなに避けられてる、気がするし…。そういう悩みとか、全部受け止めてくれて、僕のこときちんと考えてくれる、大好きな人です…」 可愛らしい唯織の独白に、みんなが全員ため息をつく。それに自分たちが「高嶺の花」と遠巻きに愛でていたことで、唯織が傷ついていたことなんて全く分からなかった。それを反省し、もっと距離を縮めようと思うのだった。 「これこれ、隼杜さん!」 瀬川が数分いなくなったと思ったら、10分ほど経って食堂の外からわたわたと手に何かを持ち戻ってくる。と、見開きページを開き一面に特集を組まれていた男の顔を指さす。それに顔を寄せ合い見ると、 「えっ、ハヤトって、あの堂島隼杜(どうじま・はやと)さん―――っ!?」 こくり、と頬を染め頷く唯織の様子に、今度こそ悲鳴を上げる。 それには生徒会のメンバーの声も混ざっていた。 ちなみにとっくに授業は始まっているが、誰もそんなことを気にしていなかった。 堂島隼杜とは、世界的に有名なモデルである。最近は俳優としても活動し、活躍の幅を大きく広げている。キスシーンは恋人が嫉妬するからだめ、と雑誌インタビューで堂々と答えるほど、恋人との仲を隠そうとしない芸能界ではとても珍しい人である。 「一回堂島さんの恋人との2ショットが雑誌に出たけど…」 「僕です…」 腕を組み、幸せに二人笑いあいながら堂島の所有する豪邸に入っていく二人。 素顔はサングラスで隠されていたけれど、それでもお似合いだと分かるようなオーラに、バッシングどころか祝福の言葉があふれていた。 「すごー…!」 「僕あの写真見て幸せな恋愛したいなーって思ったよ…」 ほう、と羨望のため息がこぼれる。 「でも…、せっかく貰ったプレゼント…」 うりゅ、とまた泣き始める。 それにまた非難の目が会長に向く。 「……すまん」 俺様の会長も、きちんと謝る。 謝ったから、と幾分目線は和らぐけれど、やっぱり消えない。 そんなとき、唯織の携帯が空気を裂くように鳴った。 ← | top | → ×
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