02



次の日の放課後、誘いに来る友達との約束を断って、久しぶりに自分の部屋に帰った。不用心にも鍵は閉めてないみたいで、すぐに扉は開いた。浮気相手の子でも待ってるからかなあと思ったけど、玄関にはサトの靴だけだったのはきちんと確認したし、今日は二人で話せるかなあ。もし後から来たらおれがいなくなればいいだけだし。
もうおれは前みたいなうじうじタロではないのだ。パワーアップたろくん、サトがいなくてももう平気なのだ。
リビングをちらっと覗いて見ると、ソファに寝転がっているサトを発見。


「サート」
「っ!!!」

呼びかけると、バッと勢いよく腹筋の力で起き上がった。焦ったようにおれのことを見てくるサトに、にへらとおれも笑い返す。

「――タロ…」
「サト、これー」

スマートに鞄から紙を取り出して渡すはずだったのに、今日はリュックだったからうまく紙が取れない。
うんしょうんしょと格闘し俯くおれを、ぎゅっと抱きしめる腕。離そうとしたらそれに反して強くなる腕の力。

「…サトー」
「タロ、お前どこ行ってた今まで」
「え?」

困ったように呼びかけたら、いきなしサトが質問してくる。

「…錫代(すずしろ)の部屋か?」
「それもあるけどぉ…」

なんかおれが浮気したみたいだぁ。しどろもどろになって答える。まあ確かにすずちゃんはおれの浮気相手だけど……へんなの。そうだ、いつもと逆なんだ、この立場が。サトは浮気しても堂々としてておれがだんだんしどろもどろになってたんだけど…。光景は一緒なのにへんなの。

「とりあえずサト、離してー」
「……」

ぐいっと無理やり力を入れて押し返して隙間を作る。
ちょっとびっくりした顔をしたサトを後目におれはリュックを漁って紙を取り出す。

「見てこれ!」
「んだこれ……同室解消、届?」
「うんっ。これにサインしてー!ハンコはなかったからここに苗字だけ書いて―――」
「タロ、お前部屋どうするつもりだ」
「えー?」

確かに、そういえば知らない。

「誰かと一緒になるのかなぁ?それか一人部屋になるのかもー」

一人部屋のがいいなぁ。広く使えるしー。にへらっと笑うと、苦虫をつぶしたような顔をしておれを見つめ返すサトがいた。

「どーしたの?」
「……いや、別に」
「もうおれはねー書いてあるんだー。だからあとはサトが書くだけー!」

はい!とペンも一緒に渡す。おれ荷物いっぱいあるんだよなー。持っていくのめんどくさいなあ。サトも荷物多いし大変だよなあ。
ぼけーっと自分の部屋のことについて考えていると、サトの手が止まった。

「書き終わった〜?」
「―――邑太郎」
「…?」

久しぶりに本名を呼ばれてどきんとする。
すずちゃんにしろサトにしろ、大事な時には邑太郎って呼ぶから、ちょっとおれも戸惑っちゃう。

「なあに?」
「お前、俺と別れるつもりか」
「?うんー」

きょとんとしながら答えると、目を丸くして驚くサト。なにがそんなびっくりするんだろー。

「なんでぇ?」
「……お前は俺が何しても別れるなんて言わなかったじゃねえか」
「でもおれ、嫌だったもん。何回もやめてってゆった」

サトが最初に浮気したときのこと今でも覚えてる。めちゃくちゃ泣いて泣き喚いて、サトにも浮気相手の子もドン引きしてた。キスはおれだけだって今思えば意味わかんない言い訳に安心して、それから浮気されても耐えてたけど、ちゅーしてるサトを見てぷつってきちゃったんだ。



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