01


あの日サトに誤解からめちゃくちゃにされたとき、おれの中の何かが死んだ。
今ではサトを見たところで、なんとも思わない。前まではおれに見せつけるようにいちゃついている知らない子に、むかついたり悲しんだりしていたけど、そんな気持ちもなくなってしまった。

サトのいる部屋に戻らず、すずちゃんや友達の部屋に通うようになって数日。今日はすずちゃんが手料理を振る舞ってくれるって言ってくれたので、わくわくしながら椅子にすわってまっていた。いい匂いが立ち込める中、「あ」とすずちゃんが何か思い出したかのようにおれのところに来た。右手にぴらぴらとした紙を持って。


「なにそれー」

渡されて中を開くと、【同室解除届】の文字が。
きょとんとしているおれに背を向けてまたキッチンで料理を再開するすずちゃんに、はてなを浮かべたおれは立ち上がってすずちゃんの横に立つ。

「これなあに?」
「お前何日も部屋に戻ってねえだろ?そういうときにこの届けを出すことで、部屋を移せれるんだよ」
「そーなのー?」

知らなかったー。それならおれだってもっと早くサトのいる部屋から抜け出してたのに。

「ただし」
「?」
「同室者の許可がいるんだよ」
「……え」

かさりと差し出された紙には、同室者の名前と本人の名前が書く欄があって、しかもハンコも押す場所もある。なんだかこれって…

「離婚届みたぁい」
「結婚もしてねえだろ」
「そっかぁ」

おれのボケにすぐつっこんでくるすずちゃん。おもしろーい。ぽこっと手の甲でおでこをこつんとつつかれて、えへへと思わず笑みがこぼれる。
わー今日のご飯はおれの好きなパスタだー。すごーいピザも作ってあるー!
イタリアンイタリアンとはしゃぐおれに笑いながら、すずちゃんがきれいに盛られたお皿を器用に両手に載せてテーブルまで運ぶ。

わいわいと話しながらご飯を食べていると、真剣な顔をしたすずちゃんが食事の手を止めておれを見つめてくる。なんだよーう。

「もらってこれるか?」
「?」
「里中からのサイン」
「!うん!大丈夫!」

おれもいつまでも逃げてばっかじゃいけないしねえ。男だからねおれも!水谷邑太郎、がんばってきます!
ぶんっと大きくうなずいたおれに心配そうな表情をしたあと、ふっと笑ったすずちゃんが、「いい子だ」とおれの頭をやさしくなでてくれる。
うーん、なんだかちょっとどきどきしちゃう。



- 91 -

top

×
- ナノ -