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春。冬の寒さなんていつのことやら、あたたかい陽気に包まれて、絶好のお昼寝日和の休日。全寮制の学校にいるのだから、気軽にどこかに買い物もできない。まわりを見渡せば、見知ったひとがうろちょろと休みを持て余している。違うのは制服じゃないということだけ。
その中を、小柄な生徒がちょこまか歩いている。
他の学校と違うのは、ここにいる生徒は全員獣耳がついていることである。
特殊体質で、18歳の誕生日を迎えるまでは獣耳が消えることはないらしい。そんな体質なんだから、高校までは一般人と隔離されるために、と作られたのがこの学園である。

人によって、いろいろな動物の特徴がついているが、十塚紀乃(とつか・きの)はうさぎだった。
白くてほわほわしたうさ耳をもち、自身も小柄で愛らしい容姿をしているため、ちょっとしたアイドルとしていた。

今日も一人で廊下を歩いていると、いろいろな人から声をかけられる。

「きのちゃん、今日一人?」
「飴ちゃんいるか、飴ちゃん!」
「あぶないぞー」

小動物系の耳がついている生徒は小柄に生まれ、それ以外は大体大柄に生まれる。
犬耳や虎耳がついた大柄の生徒たちに囲まれると、小さな紀乃は埋もれてしまう。
ずもももと近づかれると、それだけでちょっとびびってしまう。
だけど見た目とは違って勝気な紀乃は、ぷんっと怒りながら一生懸命背伸びをして、頭をはたこうとする。けれどそれでも届かないことは近づいてきた生徒たちは知っているから、さりげなくひざを曲げて頭を差し出す。
ぽこん、と叩かれるとでれーと顔を緩める。

「一人だし!危なくないし!何味ー?」
「いちご!」
「ちょーだい!」

可愛い可愛い、と大柄な獣たちは、小柄な小動物にでれでれである。

「そんで紀乃ちゃんはどこ行くの?」
「せーじのとこ!」
「「「セージ!?!?」」」


―――セージとは、柳田誠二(やなぎだ・せいじ)というこの学園の食堂の料理長である。。

「なんかねー試作品できたから、食べてほしいんだってー」
「「「へえー」」」
「めんどくさいけどさあー!」

相槌は打つけれど、目は笑っていない男たち。
ぴょこぴょこゆれるうさぎ耳が、口ではそんなことを言うけれど本心じゃないことを物語っている。

「じゃあもう行く!ばいばいー!」
「「「ばいばーい」」」

心なしか嬉しそうな足取りの紀乃を見ながら、残された男たちは呟く。

「「「くそう……セイジのやろー!!」」」

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