02



「は?誰とだよ」
「…お前の知らない奴」

そう言うと、電話口で相崎が一瞬考えたように言葉が止まり、そのあと「あぁ、」と何か思いついたようにまた話し始めた。

「首筋の情熱的なキスマークの相手か」
「……」
「えらく激しい女だったみたいで」

にやにやと笑いをかみ殺したように話す相崎に、わけもなくいらっとしたおれは、今思えば完全にまずった言葉を言ってしまった。

「―――女じゃねえし」
「―――――は?」
「キスマークの相手」
「―――男ってことか…?」
「………」

無言は肯定と同じ。
それに息を呑む相崎。

「は、意味わかんね…。お前を抱いてくれる奴なんていたのかよ…」

はは、と本当に信じられないというように笑う相崎。
おれの見た目がタチっぽいからとかどーのこーのとかじゃなく、あいつは、おれが自分のことを好きだから、誰かに抱かれるわけないと高をくくっていたんだ。…おれがあいつに操を立てているとでも思っていたのだろうか。

おれだって別にホモなわけじゃない。普通に女の子と付き合ってたし。
好きになった人がたまたま男だっただけ。簡単に言えばそうだ。
まあでも男とヤるとしたら、相崎とは仕方ないにしても、絶対タチ側だと思ってたから、あっさりと見知らぬ男に奪われるとはおれも思ってなかった。
……まあ、上手かった、けど。

「…今日もソイツと会うって訳か」
「あー…ウン。もう飯食いに行くから、じゃーな」

電話口だからかいつもより低く聞こえる声に、ごまかしても無駄だよなもう、と早々に諦めたおれは、会いに行くことを認めると電話を切った。直前に相崎が何かを言おうとする声がしたけれど、その前にさっきまであいつが抱いていた男が漏らす声が聞こえたので無視した。
どうせろくでもないことだろーし。
あいつはおれを傷つけて楽しいのか。

画面を見ると、通話中にメールが1件来ていた。
「よかったらご飯一緒に食べようか、おごるよ」
絵文字も顔文字もない質素な文面の庵さんからのメールだった。
弱っていたら、正体不明の人の優しさにもすがりつきたくなるもんだ。
おれはそれにすぐに肯定の返事を返すと、数分も立たないうちに部屋を出た。
「おごるのは当然だから!(`ε´)」
めずらしく顔文字を使ってみたら、ポケットに入っていた携帯のバイブが鳴る。
「なに、キスのおねだり?」


「…っの、エロジジイめ……」


予想を超えた返事に思わず真っ赤になった顔を押さえ、壁に手をついて立ち止まる。

「言うことがいちいちセクハラなんだよ……ばか…」

にやけた口元は気のせいだと思いたい。


そのあとかかってきた電話に、学校まで迎えに来ると一方的に言われた。
完璧にもう個人情報ばれてるな…。
呆れながらも了承する。
庵さんには何言ってももう無駄だろうし。



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[mokuji]

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