01



―――また、俺のマンションに来なさいね。
そういって切られた電話に、呆然としながらツーツーという音しかしない携帯を見つめる。一夜限りだと思っていた関係が、まさかこんなふうになるなんて。
学生証を取られた自分にも怒りがわくし、もちろん勝手に盗んだ庵(いおり)さんにも当然腹が立つ。
自習をしようと思ったけれどそんな気分じゃなくなった。
ベッドに寝転がると、頭の中でこれからのことを考える。
悪用されたらどうしよう、と思ったけど、庵さんは多分そんなことをする人じゃないと思った。信用しすぎだと思うけれど、あの人はおれに会うきっかけが欲しいだけみたいだから。
それでも体ははやく庵さんの元に行かなければいけない、と焦るけれど、あの日繁華街であった庵さんはスーツを着ていたから、こんな平日の朝に行ってもいるわけがない。行くとしたら夜だな。この学校の寮は規則が緩いし、最悪深夜に帰ってこればいいし。
明日は火曜日でふつうに学校だから、あの人もこの前みたいなことはやらないでしょ…。ていうかやられたらおれが困る。
それにあと1週間後に寮出て一人暮らし始めるし、学校に来られてもおれはもういないから、二度と会うこともないだろうし。メアドも変えればおっけーだ。ていうかそろそろ携帯変えようかな、スマートフォンいいなー。でも落として画面バキバキになったっていう話聞いたしなー。
つらつらとほかのことを考えることができるほどには余裕が出たので、痛む腰をかばうようにうつ伏せになって目を閉じると、自然と眠気が襲いいつの間にか眠りに落ちた。そういや土日、寝かせてもらえなかったし、な…。




心地よい微睡から覚め、薄く目を開けると部屋の中は薄暗かった。外を見ると日が沈み始めている。そばに置いてあった携帯を見ると、18時を指していた。
そしてメールと着信があったことに気づく。

「…誰だ?」

着信3件、メール1件。
メールは庵さんからの「19時過ぎならいつでもいいよ」という内容のものが17時半すぎに、そのあとすぐに着信も1件ある。
残りの2件は、相崎(あいざき)からのだった。
これはおれが起きるほんの数分前に連続してかかってきたものだった。
一応かけなおすと、数コールで音がやむ。

「相崎?」
「――ぁ、んっ」
「――…っ!」
「―――ハル、か?」

電波の向こう側からは、男の喘ぎ声と色っぽく息を吐き出す相崎の声がした。
右耳からそれが毒のように浸透していく。
それがめぐりめぐって、体が腐っていく気がした。

「――な、にやって…」
「―――あー、…は、セックス?」
「ん、うあ…っ」

呆れてか、それとも別の感情でか。
声が出なかった。

「…切っていいか」
「あ?「んぁっ…!」なんだって?」
「……もういい、」

切ろうと親指が電源ボタンを押そうとしたとき、ああ、と相崎が口を開いた。

「今日、飯お前ん部屋で食っていーか、」
「………夜約束あるから、無理」
「はあ?」

甲高い音が聞こえると、代わりに水音や肌がぶつかる音が消えた。




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