03
「う…」
「は・や・く」
「…ん」
174pのおれより10pほど上にある顔。しやすいように腰を屈めてくれもせず、ただ目をつぶっておれがキスするのを待ってる。
ちくしょー、おれだって女の子と付き合った経験もあるし、童貞じゃないんだからな!
つま先立ちになるのはカッコ悪いけど、首に腕をまわして引き寄せて
「―――ん」
ちゅ―――リップ音を響かせ、キスをする。だいぶ冷静になった頭で、何をやってんだおれ…と反省する。これで勘弁して!そう懇願するように唇を離すと
「―――甘いね」
いつの間にか目を開けていた兵藤さんが、唇の上でそう吐息まじりにつぶやいて。
「んぅ―――!!」
それから、たっぷり大人のキスというものを味合わされました。
とりあえず満足した、と離されたのは3分くらい経った頃。
ぐったりとしたおれとは対照的にニコニコと、「ちょっと待ってて」と言うと部屋に引っ込んで行った。ぼおっと熱に浮かされたように働かない頭でその場にしゃがみこんでいると、片手におれのシューズを持ってきた兵藤さんが来た。
「兵藤さ「庵でいいよ、ハルくん」…庵さん、じゃあおれ帰るから」
とろうとしたけれど、お約束だとばかりにおれの手が届かない位置に腕をあげられる。
「またね」
ちゅ、と最後にキスをされる。
――――またもなにも…もう2度と会わないよ…。
呆れたけど、それを言ったらまたなにされるかわかんないから曖昧に笑っておいた。
「ふう…疲れた…」
連絡先も交換してないし、知ってるのは名前だけだし。繁華街で偶然会った男の人と一夜を過ごした。普通の高校生男子は経験しないことをちょーっとしちゃっただけだし。
自分を慰めながらバスに乗って寮に戻る。
ゆるーい寮監がいる部屋を通って自分の部屋に戻ろうとすると、たまたま前から相崎が歩いてきた。横には小柄な子が寄り添っている。
それを見て自然にため息が吐くけど、だめだとその息を取り戻すかのように深呼吸をする。そしたらおれのじゃない匂いがふわりと香った。
…誰かの、香水?
―――そういえば、庵さんって、こんなような匂いしてた…。
「庵さん」という存在を思い出すと、どきっと心臓が高鳴った。
「よおハル。今帰りか?」
「あー…まあ」
「…あ?…お前、首…」
「?――――うわっ!!」
そうだった!!!
そういえば、おれ、庵さんに大量にキスマークつけられて…!!
またまた思い出す昨日と今日の濃厚なキスのこと。
相崎に適当に言葉を返すと、そのまま自分の部屋に走って戻った。
後ろで相崎が小柄な子を突き飛ばし、おれの後ろ姿をじっと見ていたのも知らずに。
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