02


「あ…あぅ…」
「なに、声掠れてるの?…ああ、昨日いっぱい喘がせちゃったからか。気持ちよさそーにとろーんとしてて、可愛かったよ」
「っ!!」

その言葉でまためくるめく情事を思い出して、真っ赤になってしまう。
恥ずかしさで俯こうとするおれの顔に手の平が添えられ、下を向けないように無理やり上を見るよう固定される。

「ここで何してるの?」
「あ…ぇ…」
「あーなるほど。俺にばれないようにこっそり帰ろうとしたら、靴がなくて帰るに帰れなかったって訳か」
「え」

なんで、

「なんでって顔してる。そんなの、俺が隠したからに決まってるでしょ」

当たり前じゃない、そう反省もしていない顔で悪びれもせずケロリと言われる一言。それに目が点なおれ。

「えええ!?!?」
「そうしなきゃハルくん帰っちゃうって分かってたしね」
「え、え、てかなんでなま…」

さっきからサラリと名前、しかも愛称で呼ばれることに今頃気づいた。
おれ自己紹介なんかした覚えない……!

「そんなの昨日言わせたに決まってるじゃない」
「え…?」
「名前教えてあげなきゃ挿れてあ「うわあああ思い出したあああ!!!」…すーぐゆったよ、しかもフルネームで」

さすが大人の男、これだけイケメンなんだから経験豊富とは思っていたけれど、初めての男相手だったのに、ぐずぐずに溶かされてしまいました…。
思い出したくないものを、また一つ思い出してしまった…。

「俺の名前は覚えてる?」
「兵藤さん」
「下の名前」
「…」
「酷いなあ」

傷ついたよ、と全然そうは見えない顔でおれを見てくる。
ほんとは憶えてる、だって昨日無理やり言わされたし…ってまた思い出してしまった…。
ちょっとは意地悪だ、と意地でも言わないと口をつぐむ。
だけど相手は一枚上手だった。

「言ってくんないと、ハルくんの靴出してあげないよ?」
「…えっ」
「裸足で帰るの?裸足で繁華街抜けるって、勇気いるよ?」
「う、うう…」
「今夕方でしょ?人通りも徐々に多くなってる頃だね」

だけど言いたくない。
そう言うと、じゃあ分かった、とようやく負けを認める声がした。
それにぱあっと顔を明るくして兵藤さんを見つめると、ダンっと背中を玄関ドアにつけられ、両手がおれの両脇に置かれる。まるで檻のように、おれを逃がさないと囲まれる。
「じゃあキスしてよ。ふかーいの」
「え」
「それで許してあげる、全部」
「…っ」
「なに、じゃあ帰れないよ?」

しなきゃ絶対に許さないと目が言ってる。
こんなことになるなら、名前くらい素直に言えばよかった…。



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[mokuji]

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