04



「なに驚いてんの」
「…相崎、自己中すぎる…。…じゃあお前は、おれがずっとお前のこと好きって知ってるのにそーやって見せびらかすように抱いてたのは、おれに何か言ってほしかったからなの…?」
「ああ」

確認のように、おそるおそる聞き返したおれの質問に、きっぱりと肯定を示した相崎に、くらりとした。
こいつは、ほんとに…。

「…もういい、おれ、相崎のこと、もう、…好きじゃないから。…だから、離して」
「―――はあ?」

今度は相崎がわけがわからないという声を出して、さらにぎゅうと離さないようにおれをつかむ手に力をこめる。
その加減の知らない力に痛みを感じ、「いた…」と呟いても離れない腕に、おれは恐怖を感じた。

「………仕方ねえなぁ」

無言で今度は噴水側に向かっていく相崎。
まさか、と本能的に嫌な予感がしたおれは必死に抵抗するけれど、体格や身長から違う相崎におれが敵うわけがない。
どん、と噴水に突き落とされる。
びちゃあ、と思い切り水の中に尻もちをついたおれは、下半身から伝わる冷たさとは違うもので顔を真っ青にする。
相崎の行動が意味が分からない。なにがしたいのか、わけがわからな過ぎてとうとうおれは嗚咽を上げて泣き始めてしまった。
それを見ても歪んだ笑みを浮かべる相崎。

「あーぁハル。この恰好じゃ出かけらんねえな?」
「う、っえぐ」
「寮にもどろーぜ。飯はもういいだろ」

相崎の両手がおれに向かって伸びる。
それに向かって水を思い切り掛ける。それにひるんだ相崎のふいをついて、反対側に四つんばいで回り込む。けれどすぐに立ち直った相崎に簡単に先回りされてしまった。

「ほら、ハル」
「や、やだ…っ」

びちゃびちゃと水をかけても、今度はひるまずにまっすぐに伸びてくる腕。
最後の希望を募るように、おれは震える声で呼んだ。

「いお、りさ…!庵さん……っ!!!」

―――助けて…っ!!


「イオリ…?」
「俺のことだよ、アイザキくん」

怪訝そうな顔をしておれを抱きしめた相崎の横から、スーツを着込んだ腕が伸びた。

「あーあ、びしょぬれじゃんハルくん。これじゃ予約はキャンセルだね」
「ひ、ひくっ、庵さ…っ」
「はい離してね、この子俺のだからー」

ひょい、とびしょぬれの俺を抱きかかえて相崎から引き離してくれる。
ブランドもののスーツが濡れてしまうことを危惧して、離れようとしたけれど、逆にぎゅうと抱きしめられた。
ぬくもりに、いくら夏が近いからって水に浸かるのは早いな、といつもより暖かく感じた体温に目を閉じた。


「なに高校生に手だしてんのオッサン」
「君こそこのあとハル連れ込んでどーするつもり?強姦?」
「は?強姦とかなに言ってんの?ハルは俺のだから、むしろ当然なイトナミでしょ」
「甘いねー、さすが高校生。……―――ハルは、俺のだ」

にやり、と頭上で交わされるやりとりは、いろいろとキャパオーバーだったおれには聞こえなかった。

「ハル」
「ハル」

二人に名前を呼ばれる。
見上げると、いつものように穏やかに、でも目は真剣な庵さんと、餓えた獣のようにぎらぎらとした目をしている相崎。
その二人が、じっとおれを見つめていた。

「行こうかハル」
「戻んぞ、ハル」

同じようなことを、別々に言う二人。
いつの間にこんなに仲良くなったんだ、と思いながらも、庵さんにぎゅうとしがみ付いた。

それを見て勝ち誇る庵さんと、悔しそうにこぶしを握り締める相崎の様子も、庵さんの胸に顔をうずめたおれはみていない。

ご飯食べる約束してたし、それに噴水に突き落とされるとか意味わかんない相崎となんか一緒にいたくない。
それは考えれば当然の結論なのに、冷やさないようにと自分の背広をおれに着させ上機嫌で抱きかかえる庵さんには届かない。

「いつ来てたの?」
「うーん、可愛いハルくんが腕捕まれてイヤイヤしてるとこ」
「け、結構前じゃん…なんで助けてくれなかったの…っくしゅ」
「いやー、いつ助け呼んでくれるかなーって」

最悪の暴露に、さっきまできゅんってした胸が、一気にしぼんだ。
おれのときめき返せ!!!

「さ、最低じゃん!!もうやだ、おれ一人でご飯食べ…っ!!」
「出発するなー」

無常にも走り出した車。
それを後ろからじっと睨みつける相崎に、庵さんが気づくと、にやりと見せ付けるようにおれの頭を引き寄せて唇を奪った。



メビウスの輪



(めぐりめぐって、離れない)




おいおい相崎、最低だな。
このあとハルくんは体を温めると称されてどろどろに愛されます。



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