03



庵さんが来るまで、おれは正門が見える中庭の噴水近くのベンチに座って待つことにした。携帯はそのまま通話中で、待っている間たわいのない会話をする。
夏が近づいているせいか、夜なのに薄着でも大丈夫なほど快適な気温だった。手持ちぶさたにチノパンのサイドの紐をいじりながら、時折聞こえる庵さんの笑い声にちょっとどきどきしていた。

「運転しながら電話って危ないよ」
「今赤だから大丈夫」
「…さっきもそう言ってましたけどー」
「ははは」
「悪い大人だ」
「今更だなあ」

軽口を叩きながら話すと、待つ時間がなんだか短く感じた。
もう着くよ、という声にわかったと返事を返す。

「ハルくん」
「?なに」
「あれやってよ、電話越しにちゅって」
「は?」
「いいじゃん」

庵さん言うことなんか親父っぽいよ!
やだやだと言ったけど、まあまあと押し切られる。
なんかする空気になっちゃったから、回りを見渡して誰もいないことを確認する。

「う…庵さん、」
「なあに?」
「…気をつけて来てね、ちゅっ」

リップ音を響かせると、「やー可愛いなあハルくんはー」とデレデレとした声が耳元で聞こえた。

「う、うるさいっ!バカ!!!」
「はいはい、またね」

くすくすと余裕そうに耳元で漏れる笑い声に、真っ赤になって怒鳴る。もう切ってやろうと電源ボタンに手をかけると、「ちょっと待って」と呼び止められた。恥ずかしいから早く切りたいのに。ええ、と漏れた声が不服そうだったのは致し方ない。うん。
そんなおれに対しても怒ることなく、穏やかに、庵さんは爆弾発言をした。

「今日も可愛いハルが見たいな」

そういってちゅっと流れるようにリップ音を響かせる。

「う、うわあああっっ!!!」

破壊力抜群のその行動に、耐え切れずうずくまる。
――なんだその、お誘いは!!!
ベンチの上で転げまわっているおれは、端から見れば頭がおかしいやつって思われてただろうけど、そんなの関係なかった。
もー恥ずかしくて仕方ない!!!

「なにハルくん、どきどきしちゃった?」
「く、くそエロオヤジ!!」
「エロイことなんて何も言ってないよ?…やらしいなぁ、想像しちゃったの?」
「悪い大人だ!!!!」
「はは、あ、今坂上ってるから、門の外来てくれる?」
「う、わ、わかった」

その対応の慣れている様子に、おれってばまだまだガキだとちょっぴりへこむ。それが合図のようにおれも通話していた電話を切ると、携帯を尻ポケットにしまう。
行くか、と立ちあがり、正門方面に向かおうと噴水前にさしかかったとき。


「―――ハル」


ぬ、と後ろから手をひかれ、振り向くと肌蹴たシャツにキスマークを散らした、情事後だからか息を乱した相崎がいた。


「……な、なに」

目に入るのは首元についたキスマークで、思わず目をそらした。ぎゅ、と無意識のうちに捕まれていない反対の手で携帯を握りしめていると、それに気づいた相崎が眉を寄せて不機嫌な顔をした。

「なに携帯握りしめてんの」
「べ、別に…」

お前こそ、なにか用事?声に出して、思いのほかそっけない返事をした自分に驚く。相崎に対してこーいう態度、昔は取れなかったもんな…。今は、誰のおかげで…。そこまでたどり着いて浮かんだ顔に、さっきのやりとりを思い出して顔を赤らめた。
それにまた眉間にしわが寄った相崎には気づかず、おれは思い出しにやけというものを人生初体験をしていた。

「…飯食いに行くぞ」
「―――は?」
「来い」
「ちょ、相崎!?」

ぐいぐいと正門とは反対方向にひっぱられ、慌てておれはその場に足を踏ん張らせて抵抗する。
理不尽な相崎の行動に頭はついていかず、ただ戸惑うばかりだ。

「ちょ、おれ今日は人と会う――」
「お前さ」
「っ」

びく、と肩が震える。
それほどまでに、相崎の声は聞いたことがないくらい冷たかったから。
なんで怒ってんの?え?は?
ぐるぐると意味の分からないことに怒りをぶつけられて半泣きになる。
仮にも好きだった奴にそんな――――

「俺のことまじで好きなわけ?」
「ぇ、」
「女抱いても男抱いてもなんも言わねえし、俺のこと好きならなんか言えよ。つか今日もほかの奴優先するとかなんなん?」

ぽかーんと今度は口を間抜けに半開きにして驚いた。
は?…こいつ、自己中すぎ、る…。



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