∴ 1/3 あいつはいつも、よゆうでおれと恋してる。 「ひまなんだけどもー」 「今いいとこ。その漫画読んどけ」 「…」 今だって、おれのことほっぽいて、一人でゲームなんかやってるし。 ふつう恋人同士だったら、仮にも付き合ってる相手無視してゲームなんかするかぁ? ふまんたらたらでぶーたれるぞ、ばか。 大学生のこいつと、高校生のおれ。 大学のことなんてわかんないけど、単位とか忙しいのは分かる。高校みたいになんでも世話わいてくれないから、ぜんぶ自己責任らしいし。 テストだってレポートばっかだってゆってたし。いそがしいかなあって結構おれも考えて、連絡もあんましなくって、今日ひさしぶりにあったのに。 メールも電話もなくて、ちょっぴりさみしかったのに、それはおれだけなのかねえ。 そんなこと考えたら、ちょっぴり切なくなったりして。 テレビにくぎ付けで、一度も振り向いてくれない背中が、なんだかいつもより大きくて、なんだかいつもより遠かった。 「それ、信(しん)さんほんとに旭(あさひ)のこと好きなの?」 「ぐっさー」 そんなおれの人にはあんまり言えない悩み事を、おれが男と付き合ってるって唯一知ってるベストフレンドの拓(たく)にゆったら、そっこーで傷えぐられた。 人が気にしてることをずばって言うの、この子のいいところでもあり悪いとこ。 「ばか、いきなし核心にいかないでよう」 「メンゴメンゴ。まあ信さん謎だしなー。でもイケメンだしなー。信さんの行ってる大学、可愛い子多いじゃん」 「もう拓きらい」 拗ねた、ぷーん。 信はお隣さんで、両親が共働きでひとりっこなおれを、いつも信の家が迎え入れてくれた。家族ぐるみの付き合い。 「近所のお兄ちゃん」から、「恋人」になったのは、いつからだっけ。なんでだっけ。 夕焼けにそまった道を、ひとりで歩く。 もうすぐ秋だなー。いつもは拓とバカ騒ぎしながら歩いてるから楽しいのに、テストの点数悪すぎて補習受けるとか、ほんとばか。 こんな気分で一人で歩くと、そりゃあ考えちゃうよねー、信のこと。 最初は、ほんとうに近所のお兄ちゃんって感じだった。 3個上だから、ちょうど中学も一緒に通えなくって、高校も別々だから、ほんとうにお隣でしか会うことがなくって。 今は実家暮らしだからいいけど、そのうち信も就職するし。 そしたら絶対一人暮らしするだろーし。もしかしたらどっかとおいとこに引っ越しちゃって、遠距離になって。 ていうか、そんなに続いてんのかなあ、おれたち。 考え事をしてたら、いつの間にか家の近くまで歩いてた。ワープしたみたいにそれまでの記憶がなかったから、一瞬ほんとにびっくりした。 今日も信の家行こっかなー。でもやっぱ昨日みたいになったら、こわいなあ。 とぼとぼ歩いてたら、信と誰かの声が聞こえた。 思わずまた俯いてた顔を上げると、信が楽しそうにおれの知らないだれかと話してた。 男だし、信と同じくらいの身長。眼鏡男子、イケメン。 多分信が前話してた大学のいつもつるんでるっていう友達だと思う。 いいな。いいな。 おれも、ああやって信とふつうに話したいな。 こんなふうにぐるぐる悩むことなんてやめて、前みたいに、近所のおにいちゃんってふうに。 あーあ。別れた方が、いいのかなあ? |