∴ ロックオン!(その一言から狙われる)

「おれも染まろうと思う」

おれの言葉にきょとんとする男たち。その中の一人の遊佐(ゆさ)が、3個目の菓子パンを開けながら「なにに?」と聞き返す。

「男同士のラブに」
「ぶーーーーーーー!!!!」
「うわきたねえな」

その言葉に口に含んだコーラを思い切り吹き出した濱口。遊佐がぶちぎれた。おれは本気で引きながら、自分に被害がなかったことに安心する。濱口のせいでクラスメイトの注目を浴びている気がする。
遊佐から思い切り拳骨を食らって涙目の濱口を気にせず、マイペースに話を続けた。遊佐もおれの方を向いて、「それで?」と続きを促してくる。それにうむ、とうなずき、もそもそとメロンパンをほおばりながら口を開いた。

「いや、この高校ってホモ多いだろ?」
「(ていうかホモかバイしかいねえよ…)…うん」
「だからさー、郷に入れば郷に従えってゆうじゃん」
「…おう」
「だから、おれも男同士の恋愛を一度しなきゃな、と」

話している途中から、遊佐がうなずかなくなった。なんか目が怖い。ぎらぎらしてる。

「遊佐?」
「……ちなみに、お前はどっちなんだ?」
「へ?」
「突っ込みたいのか突っ込まれたいのか」
「…?」
「だから、抱きたいのか抱かれたいのか」

妙に食いぎみだな、遊佐。いつもはクールな俺様って感じなのに。そんなにびっくりしたんかな。濱口もちょっと引き気味だぜ。
(遊佐、欲望だだ漏れ…)ちびちびとその様子を見ながら、そんなふうに濱口が思っていたなんて知らない。

「そりゃ、抱く方?」
「タチか」
「そうそう、たち」

たちか。そういうんだ。
明らかに分かっていないといったおれにため息をつく濱口。ばれた?

「あーあ、郁はほんと…」

馬鹿だな、まじで。こっそり呟いてるようだけど、丸聞こえだかんな。お前こそオレンジ頭にカチューシャとか頭おかしい髪型してるくせに。ライオンキングかお前は。

「遊佐さん、大変ですねー。とうとう郁が目覚めましたよ」
「うるせえ」
「あー、あいつ走ってった。誰に報告する気だ〜?」
「あ゛?」
「こええよ…」

おれが何気なく零した一言が、まさか学園中に知れ渡って、それから追い掛け回される日が来るとは、そのときのおれは知る由もない。

今日もトイレに行った帰りに知らない男に話し掛けられて全力で逃げ回っている。

「てかっ…はあっ、はあっ、おれは、突っ込みたい、って、ゆったっつーのに…ぁ…っ!!」
「いや、郁は明らかにネコだろ。美人だし前から喘がせてえって言われてたしな」

抱きたいランキング2位だぞお前。副会長の次だぞ。
追い掛け回され、捕まった時に言われた一言に思わず相手を二度見してしまった。
……まじか。
そのあと助けに来てくれた遊佐に抱えられながら、おれは自分の言った一言を撤回したくて仕方なかった。時間って、どうやって戻せるの。

「まあ、人のうわさも75日といいますし…」
「無理だろ。こんな盛り上がってるんじゃ」

こりゃ早くこいつが誰のものかわからせねえといけねえなあ。
真っ黒オーラが漂う遊佐の胸の中で、おれはタイムリープの仕方を真剣に考えていた。


おわり


多分このあと部屋連れ込まれますね。


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