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「っち」

舌打ちが俺の上から響く。無視して行為を続けようとしたが、切れる様子のない着信に焦れた男が腕を伸ばしてベッド脇に無造作に放置してあった俺の携帯を掴む。
そのまま中を開いて電源を切ろうとした手が止まる。

「―――ちゆ?」
「っ」
「…これがお前の女か?」

女じゃねえよ!!

「ふーん……」

そういうと、手の中でなり続ける携帯に俺に何の断りもなく、男は出た。

「ちょ、てめえなにや――っ」
「お前が千景の女?」

息をのんだ。
こいつ、とんでもねえ勘違いしてやがる――…っ!

「ばかっ、ちゆは――」
「おにいさん、だあれ?」
「…」

声としゃべり方が幼すぎるのに疑問を持ったのか、眉をひそめて俺を見つめる。
だから言ったじゃねえか!!

「――お前、誰だ?」
「ちゆ?ちゆは、にーにの妹の、ちゆです。お兄ちゃんは?」
「…………吾妻、潮だ」
「うしお?モーモー?」
「…違う」
「モーちゃん、にーにいませんか?今日ちゆお迎えに来てくれなかったの」

そこでやっと疑問が確信になったのか、先ほどまでの獰猛な雰囲気は消え、少しうろたえた潮さんの姿があった。

「…だから、女なんかいないって……」

沈黙が痛かった。

「モーちゃん、にーににちゆいい子で待ってるってゆって、く、く」
「下さいよ、ちゆ」
「ください!」

じゃあね、ちーちゃん。
母さんののんきな言葉で電話はそう切れた。






「………悪かった」


いいって言ったのに、送るときかなかった潮さんに無理やり家まで送られている途中。
夜道で何の脈絡もなく謝りだした。

「……潮さんって、」
「…」
「いつも、制裁って言ってああゆうことするんすか?」

あんな、男の尊厳をまるっきり無視するような最低行為。
同じ男に押し倒されて体をまさぐられる恐怖。

「んなことするかよ…っ」

絞りだされた声は、加害者なのにまるで被害者のように切なく響いた。

「お前が、チーム抜けるっつーから、なんとしてでもモノにしたくて、焦った」
「なんで、そんな俺に固執するんすか…」

喧嘩だって、特別強いわけでもない。
いつもよけるの下手だから生傷は耐えねえし。

「……鈍感」
「は?」
「………んなの、お前のこと愛してるからに決まってんだろ」

…決まってないっす。


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