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あのあと、目を開けると見慣れない天井が広がっていた。
家じゃない、と寝ぼけながら思うと、隣で「起きたか?」と声が聞こえた。
それに驚いて思いっきり首を振って向くと、潮さんがなぜか上半身裸で俺の隣で寝ていた。

「う、潮さ…?」
「よし。ちゃんと名前で呼ぶようになったな」

そういえば、俺…学校帰りにちゆを迎えに行こうと思ったら潮さんに捕まって、そのまま―――。
何まったりしてんだ!!!ここ超危険地帯じゃねえか!!
でもここで帰りてえとかいうと、なにが起きるかわかんねえ。俺は慎重に、遠回しにいろいろ情報を得ることにした。

「今、何時っすか…」
「あ?9時過ぎ」

外を見ると真っ暗なことから、夜だと知る。朝じゃなくてよかった。もう夜遊びはやめるってちゆに誓ったし、約束を破ったらきっと泣かせちまう。

「あの、なんで俺ここに……」
「ちぃが昨日逃げるからだろ?しかもやめるとかどういうことだ」
「こ、言葉通りっすよ。潮さんのチーム、別に好き勝手やめてもいいって言ってたじゃないですか…制裁も、ないって…」

なのに総長直々に襲われるってどういうことだよ。
「なんでやめたいんだ?」
「……心配、かけたくないんで」
「――女か?」
「……いや、」

妹です。と言うのに羞恥心が邪魔をしてためらっていると、それに潮さんの眼光がきつくなる。

「―――女か」

ぎらり、と光る眼に、俺は何か自分がやっちまったことだけは分かって、背中に冷や汗が流れるのを感じた。
隣で寝転んでいたはずの潮さんが今は俺の上に乗っかり、端から見れば押し倒しているような体勢になる。

「潮さ、なんすかこのたいせ…っ」
「―――お前が女を抱けねえようにしてやるよ」

そう言って笑った潮さんの顔は、俺が喧嘩中に何度か見たことのある、本気でぶちぎれたときのものだった。

―――――これは、まずい。

俺が本気で抵抗したところで、総長である潮さんに俺が勝てる見込みはないに等しい。この体勢で唯一狙える急所蹴りを実行しようと右足を上げようとしたとき、そんな俺の攻撃が来ることが分かっていたのかすっと左手で俺の足首を掴むと、―――思い切り噛みつかれた。

「いっ…!!!」

容赦のない力で噛みつかれた足首は、痛々しい歯型がくっきり残された。
思わず涙目になった俺に、「悪いことする奴には、お仕置きしなきゃなあ?」とドS丸出しの発言を呟いた。
その言葉に固まり今度こそ抵抗が出来なくなった俺を褒めるように、歯型の後に舌を這わせる潮さん。

「や、やめろって…!!」

敬語なんて今更使ってられねえ。
これは男ならまず経験することない恐怖――男に、襲われている。
身を捩り抜け出そうともがくが、潮さんが拳を俺の耳すれすれの位置に振り下ろしたことで、それさえもできなくなった。

「動くんじゃねえよ。気持ちよくしてやるから」

シャツに手をかけられて、そのまま勢いよくボタンごと引きちぎられる。
肌蹴させられた俺の胸元に手を置くと、そのまま唇を寄せ愛撫しようとした。
絶体絶命。死にてえ。同じ男なのになんて俺は無力なんだ畜生。
あらゆる罵詈雑言を目の前の男に憎しみを込めて呟いていると、それに気づいた男はひるむことなく真正面から俺の呪いを浴び、嬉しそうに、狂気的にほほ笑んだ。

「いいな、その眼。俺しか映ってねえ――」

―――変態野郎―――…っっ!!!



そのとき、ちゆ専用の着信音が俺の携帯から空気を裂くように流れた。



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